パチンコ店が体に悪い施設であることは、このブログで何度も書いてきた。
目に悪い激しい光、座りすぎによる下半身の血流悪化、肩こり、腕のだるさ…。健康シリーズで取り上げてきた問題はどれも深刻だが、今回テーマにする「騒音」は、ある意味で最もタチが悪い。
それは、ダメージを受けていることに自分で気づけないからだ。
タバコについては分煙・禁煙化が進み、以前と比べれば大幅に改善された。だが騒音については、ホールもメーカーも抜本的な対策を取る気配がない。爆音環境は何十年も放置されたままだ。
この記事では、パチンコ店の騒音がもたらす健康リスクと、なぜ耳栓が最も確実な防御策なのかをまとめた。結論を先に言うと、数十円の耳栓が、3万円のノイキャンイヤホンより耳を守る。
騒音性難聴──気づいた時にはもう手遅れ
音響外傷と騒音性難聴の違い
大音量によって内耳がダメージを受けることを「音響外傷」という。ライブ会場で一時的に耳がキーンとなるあれだ。これは一時的なもので、数日以内に耳鼻科で治療を受ければ回復の可能性がある。
問題は、日常的に繰り返し騒音に曝された場合だ。これによって起きるのが「騒音性難聴」で、こちらは二度と元には戻らない。
内耳にある有毛細胞という、音を感知するための細胞が破壊される。この細胞は一度壊れると再生しない。現在の医療では元に戻すことが不可能だ。
WHOの基準とパチンコ店の騒音値
世界保健機関(WHO)によると、騒音性難聴になる目安は以下の通り。
- 85dBで8時間
- 100dBで15分
- 115dBで28秒
パチンコ店の騒音は概ね85〜110dB程度と言われている。
85dBは客がまばらな閑散店のレベルだが、それでも1日8時間の遊技で危険域に入る。繁盛店なら100dBを超えることもあり、その場合はたった15分で危険域だ。

本当に怖いのは「自分では気づけない」こと
ここが最も伝えたいポイントだ。
騒音性難聴で最初にダメージを受けるのは、4000Hz付近の高音域。ところがこの音域は日常会話では使わないため、聴力が落ちても日常生活に支障が出ない。「自分はまだ大丈夫」と思い続ける。
初期に出る症状は難聴ではなく、耳鳴りだ。「最近ちょっと耳鳴りがするな」くらいの感覚。この段階では、まさか聴力が落ちているとは思わない。
そして数年後、会話の音域にまで障害が広がって「あれ、聞き取りにくいな」と感じた時には、もうかなり進行している。しかも多くの人は「年のせいかな」で片付けてしまう。
興味深いデータがある。アフリカのスーダンに住むマバーン族は80歳になっても20代の聴力を維持しているという報告がある。彼らは非常に静かな生活を送っている。つまり加齢で耳が悪くなるのは「自然現象」ではなく、騒音ダメージの蓄積だということだ。
今度ホールに行ったとき、試しに片耳だけ指で塞いでみてほしい。それだけで「こんなにうるさかったのか」と気づくはずだ。普段は脳が慣れてしまって、もう感じなくなっているだけなのだ。
耳だけじゃない──騒音がもたらす全身への健康被害
騒音の被害は耳だけにとどまらない。
ストレスホルモンと心血管リスク
騒音を浴び続けると、体が「戦闘モード」に入る。コルチゾールというストレスホルモンが出っぱなしになり、心拍数と血圧が上がり、血管が傷つく。
医学誌「Journal of the American College of Cardiology」(2018年)では、騒音環境でのコルチゾール過剰分泌が高血圧や心臓発作につながる可能性が報告されている。マサチューセッツ総合病院の研究でも、騒音が脳のストレス反応を活発にし、心血管疾患のリスクを高める可能性が示されている。
パチンコ店に座っているだけで、体はずっと緊張状態にある。リラックスして楽しんでいるつもりでも、体の中ではストレスホルモンが出続けているのだ。
糖尿病リスクや自律神経との関連
騒音によるストレスホルモンの分泌は血糖値も押し上げる。
以前の記事「パチンコ・パチスロと糖尿病|長時間稼働が招く突然死のリスクと予防策」で書いた座りすぎや食生活の乱れに、騒音ストレスが加わることで、パチンコ店という環境がいかに複合的に体を壊していくかが見えてくる。
自律神経のバランスも崩れる。慢性的な疲労感、イライラ、睡眠の質の低下…。長時間稼働のあとに感じるあのドッと来る疲れは、単なる「打ち疲れ」だけでなく、騒音によるストレス反応の結果でもある可能性がある。
ちなみに、欧州環境機関(EEA)は、騒音を大気汚染に次いで公衆衛生に最も有害な公害として位置づけている。
パチンコ台の演出音は「耳が最も壊れやすい音域」を直撃している
パチンコ台やパチスロ台の演出音──あのキンキン、ピロピロした音は、一般的に人間の耳が最も敏感な2000Hz〜4000Hz付近の中〜高音域に集中していると考えられる。
メーカーとしては当然の設計だ。人間が最も反応する音域で演出を作ればインパクトがある。だが、それは同時に耳へのダメージも最大化している。
そして騒音性難聴で最初にやられるのも4000Hz付近。パチンコ台の演出音は、耳が最も壊れやすい場所をピンポイントで攻撃しているといえるだろう。
ボリューム設計とホール環境の問題
打ち手なら共感するだろうが、多くの台はボリュームが5段階程度しかなく、1と2の間の差がありすぎる。1は何も聞こえない。2にすると途端に大きい。「もうちょっとだけ小さく」ができない。
最近は細かいボリューム調整ができる機種も出てきており、これは良い傾向だ。
ただし、問題はそれだけでは解決しない。ホール全体の騒音環境は、ボリュームを小さくする人が多数にならないと改善されないからだ。
実際にホールでは「耳、大丈夫?」と聞きたくなるくらいの爆音で打っている人は非常に多い。自分がどれだけボリュームを下げても、隣の台の音は容赦なく聞こえてくる。
好きな台や面白い台を打ちたくても、釘が悪かったり高設定が期待できない状況では、「勝つため」に好みではない台を選ばざるを得ないことも多い。そんな日に隣の台の爆音を何時間も浴びるのは、なかなか堪える…。
根本的な解決には店側が台の最大音量を低めに設定する必要があるが、そこまで踏み込んでいるホールはほぼ見かけない。
環境が変わるのを待っていたら耳が先にやられる。自分で守るしかないのだ。
ノイキャンイヤホンで耳は守れるのか?
ホールを見渡すと、ノイズキャンセリング機能つきのイヤホンをしている人がそこそこいる。多少の遮音効果はあるだろう。だが、パチンコ店での聴覚保護という目的では、過信は禁物だ。
ノイキャンの弱点
そもそも聴覚保護デバイスではない。
ノイキャンイヤホンはNRR(騒音低減値)の認定を受けていない。あくまで「快適に音楽を聴くため」の製品だ。
アメリカの労働安全衛生局(OSHA)も「ノイズキャンセリングがノイズリダクション(騒音低減)と混同されやすい」と警告している。
多くの人が着用しているAirPods Proについても、Apple自身が「110dBAを超える持続的な騒音に対しては保護が不十分」と記載している。
中〜高音域が苦手。
ノイキャンが得意なのは飛行機のゴーッという低音域(250Hz以下)。パチンコ台の演出音が集中する中〜高音域(1000Hz〜4000Hz以上)はかなり素通しになる。ここが耳栓との決定的な差だ。
バッテリーが切れたら丸腰。
どんなに高性能でもバッテリーが切れればただのイヤホンだ。朝イチから閉店まで打てば10時間以上。公称8時間程度のバッテリーでは途中で切れるリスクが十分にある。バッテリーが切れた瞬間、耳は無防備になる。
私もSonyのWF-1000XM4を使っているが、パチンコ店では中〜高音域がかなり素通しになる。バッテリーも購入から数年経つと公称の半分程度しか持たず、長時間稼働する日はまず最後までは持たない。

ノイキャンが無意味というわけではない
念のため補足しておくと、何もしないよりはずっとマシだし、低音域の遮音はむしろ耳栓より優れている。音楽を聴きながら多少の遮音効果を得たいなら、選択肢としてはアリだ。
ただし、「ノイキャンイヤホンをしているから耳は大丈夫」と思い込むのは危険だ。本気で耳を守りたいなら、やはり耳栓が第一選択になる。
耳栓が最強である理由
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耳栓は、朝から閉店まで一切の電池切れリスクなし。Moldexなど、それなりの製品なら全音域にわたって安定した遮音性能を発揮し続ける。特にパチンコ店で最も危険な中〜高音域の遮音は、どのノイキャンイヤホンよりも優秀だ。
3万円のノイキャンイヤホンより、数十円の耳栓のほうが耳を守れる。皮肉な話だが、これが事実だ。
耳栓はストレスホルモンも抑える
ベトナムの繊維工場(93〜100dB)で働く女性労働者を対象にした研究では、耳栓を装着した日はストレスホルモンの分泌量が耳栓なしの日と比べて低下したと報告されている。
ICU患者を対象にした研究でも、耳栓の使用によってコルチゾールが有意に低下し、心拍数や血圧の改善が確認された。
耳栓は聴力だけでなく、心臓や血管も守っている可能性がある。
耳栓のおすすめ

定期的にAmazonで購入。
自分に合う製品を選べばいいと思うが、私は定番のMoldex(モルデックス)の耳栓を使っている。
遮音性能が高く(NRR30dB以上)、長時間装着しても比較的快適だ。いろいろ使った結果、今は「Pura-Fit 6800」を愛用している(最近、ちょっと質が落ちてきた感じがするけど)。
Amazonでまとめて購入しておけば、1ペアあたりの単価は驚くほど安い。ホールに行く日は必ずケースに入れて持参している。衛生面を考えて、定期的に新しいものに交換するのがベターだ。
持っていくのを忘れた場合は、ホールでも1セット100円程度で販売していることが多い。質は良くないが、しないよりはする方が圧倒的にマシだ。私も忘れた時は打つ前にまず買うようにしている。
正しい装着と注意点
耳栓はただ耳に突っ込むだけではNRR30dB以上の性能を発揮できない。
指で細く圧縮してから、耳の上を引っ張って耳の穴をまっすぐにした状態で奥まで入れ、20〜30秒押さえて膨らむのを待つ。これだけで遮音性能がまるで変わる。
衛生面も重要だ。ホールではメダルやボタンなど不特定多数が触ったものに常に触れている。耳栓の装着はできればホールに入る前か、手を洗った直後がベストだ。
長時間装着すると蒸れや圧迫感が出ることもあるが、「不可逆的な聴力の喪失」と天秤にかければ、十分に受け入れられるトレードオフだろう。Moldexが合わなければ、別メーカーやシリコンタイプも試してみてほしい。

汚れないようにケースに入れるのがおすすめ
まとめ:自分の聴力は自分で守る

パチンコ店もメーカーも、騒音の危険性を分かっていながら抜本的な対策は取っていない。だからこそ自分の体は自分で守るしかない。
この記事で伝えたかったことは3つだ。
1. 騒音性難聴は気づけない。 最初にやられるのは日常会話で使わない高音域だから、自覚症状がないまま進行する。「まだ大丈夫」と思っている人ほど危ない。
2. 騒音の被害は耳だけではない。 ストレスホルモンの分泌を通じて、心血管系や血糖値にまで影響を及ぼす。パチンコ店の騒音は全身を蝕んでいる。
3. 数十円の耳栓が、最も確実に耳と体を守る。 3万円のノイキャンイヤホンより、数十円のMoldexのほうがパチンコ店では優秀だ。電池切れの心配もない。
一度失った聴力は二度と戻らない。今日から耳栓習慣を始めてほしい。
【参考文献】
- 世界保健機関(WHO)「Make Listening Safe」騒音ガイドライン
- Münzel, T., et al. (2018). Environmental Noise and the Cardiovascular System. Journal of the American College of Cardiology, 71(6), 688-697.
- Tawakol, A., et al. (Massachusetts General Hospital). 騒音と扁桃体活動・心血管リスクに関する研究
- Sudo, A., et al. (1996). Effects of earplugs on catecholamine and cortisol excretion in noise-exposed textile workers. Industrial Health, 34, 279-286.
- Bahcecioglu Turan, G. (2024). The effects of eye masks and earplugs on sleep quality, anxiety, fear, and vital signs in patients in an intensive care unit. Journal of Sleep Research, 33, e14044.
- 厚生労働省「聞こえにくさ」感じていませんか?
- 同友会メディカルニュース「騒音性難聴・音響性難聴(音響外傷)」
- 環境省「騒音の目安」(パチンコ店=90dB)







