前回、ジャグラーに高設定が入る理由を並べたとき、私が4号機時代に店長から言われた「ここから育っていってもらいたい」という言葉を引いた。
入口としての位置づけは業界側にも確かにある。広告効果と稼働への貢献に加えて、この「育成」がよく挙げられる。
だが、その論理はもう成立していない。
しかも、二重に折れている。
この「育つ」には、二つの意味がある。
| 何が育つのか | 成立の条件 | |
|---|---|---|
| 投資としての育成 | 客の粗利 | 薄利の客が、後で高粗利の台に移ること |
| 教科書としての育成 | 客の技能 | そこで覚えたことが、次の台で使えること |
「ここから育っていってもらいたい」という店長の言葉には、たぶん両方が入っている。そして両方とも、別々の理由で成立しなくなった。
1パチから4パチへは移らない
一つ目は投資の論理でできている。今は薄利でも、後で高粗利の台に移ってくれるなら回収できる、という考え方だ。
だが、移らない。
私は4号機の頃から30年近く、勝率と判別のしやすさだけを基準に台を選んできた。荒い台に「育った」ことは一度もない。
同じことがパチンコでも起きている。業界は1パチで慣れてから4パチへステップアップしてもらうと考えているのかもしれないが、1パチ客が4パチに移行することはほぼないだろう。私は以前そう書いた。
前回までに書いた話と並べると、こうなる。4円から落ちた客は戻らないし、1パチから上がる客もいない。 方向は逆だが、どちらも同じことを言っている。梯子として使われていない。
第一回に書いた私の妻も、甘デジが回らなくなった時点で、低貸しにも移らずそのままやめた。
梯子だと思われていたものは、実はメニューだった。
この違いは大きい。梯子なら中段を撤去すれば上に行くよう圧力がかかる。メニューなら選択肢が一つ消えるだけだ。
そして、中段には住人がいた。
4号機の頃、ジャグラーの次にはニューパルサーがあり、その先には花火のようなアルゼ系のA400タイプがあった。あの島にも年寄りは大勢いた。
彼らが通過中だったのか、そこが目的地だったのかは、外からは分からない。少なくとも、通過していく人の姿を私は見ていない。
そしてこの記事の話としては、どちらでも構わない。通路として設計されていたとしても、大半がそこに留まったのなら、結果は同じだからだ。業界の意図を疑う必要はない。動かなかったという結果だけがある。
ジャグラーの島、ニューパルの島、花火の島に、それぞれ違う人が住んでいた。
中段を消すことは、通路を消すことではなく、街を消すことだった。
街を消された住人は上の街には引っ越さない。出ていくか、下の街に戻るかだ。パチンコで観測されたのが前者で、パチスロで観測されているのが後者だと思う。

そして私は、流入した一人だ。 私は中段の街を見ていた人間ではなく、そこに住んでいた人間の方だった。
だとすれば、ジャグラーの島が賑わっているように見えるのは、繁栄ではなく流入なのかもしれない。
中段は教室でもあった
もう一つの「育つ」の方は、もっと分かりやすく壊れている。
かつてジャグラーは、「パチスロの教科書」だった。目押しを覚え、フラグが成立してから自分で図柄を揃えるという仕組みを覚える。当時は目押しができないと話にならなかったので、ジャグラーで覚えた人は多い。
海がパチンコの教科書だったのも同じで、ヘソ、確変、電チューという基本の仕組みをそこで覚えた。入口には、確かに意味があった。
だが今、主流の台には目押しは必要ない。だから教科書に通う理由がそもそも薄い。
そして、覚えた技能を使う先はどこだったかというと、それがさっきの中段の街だ。ジャグラーで目押しを覚えて、次に打つのがニューパルだった。そこで初めてリーチ目を覚え、その先が花火になる。技術介入の度合いが一段ずつ上がっていく。あれは技能の梯子でもあった。
そして、その梯子は中段までしか架かっていない。
今の主流であるAT機は、ノーマルタイプとは仕様がまったく違う。覚えるべきなのは通常時の示唆であり、モードであり、やめ時の判断だ。ジャグラーで覚えたことは、ほとんど何にも使えない。 同じパチスロという名前が付いているだけで、実際には別の遊びだと考えた方がいい。
前々回に私が「パチスロとはノーマルタイプのことだ」と書いたのは、たぶん懐古であると同時に、仕様の話でもある。
しかも上の段の方が複雑で、やめ時ひとつ取っても初心者に判断できるものではない。とっつきにくさは、上に行くほど高くなる。
教科書だけが残って、進学先がなくなった。
中段は試着室でもあった
もう一つ、段差が小さい梯子には別の機能があった。破産せずに自分の耐性を測れるという機能だ。
これについては、比喩ではなく自分の記録がある。前々回に並べた履歴が、そのまま試着の記録になっている。
ノーマルタイプをベースに置いたまま、上に載せるものを何度も入れ替えてきた。5号機の絆、絆2、コードギアスC.C.、カバネリ。合えば続け、合わなければ降りて、またベースに戻る。それを何度もやれたのは、一段上がるコストが小さかったからだ。
コイン単価で言えば、ノーマル機が2円前後、AT機が3円前後、荒い台が4円以上。連続していれば、試して戻ることに大きな代償が要らない。
しかし、今は還元のある席がジャグラー帯と荒い台に二分されつつある。試着室が完全に消えたとは言わない。だが、段が減れば一段の高さは上がる。
段差の小さい梯子は、自分に何が向いているかの答え合わせを、安全に何度もやらせてくれる装置だった。段差が大きいと、答えが出る頃には財布が終わっている。
前々回、自分の基準を数字で言えたのは、その装置を何度も使ったからだ。今から始める人には、その機会が少ない。
育成という脚は、これで二重に折れた。だがそれとは別に、中段にはもう一つ役割があった。ここまで書いてきた三つを並べると、こうなる。
中段の街は、住居であり、教室であり、試着室だった。そして一つの島が消えると、三つとも一緒に消えた。
育成の方は移らないから折れ、教えた先がなくなったから折れた。残っているのは、前回書いた広告としての意味と、稼働への貢献だけになる。
まとめ
- 「育つ」には投資としての意味と、教科書としての意味の二つがある
- 投資としては、移らない。梯子だと思われていたものはメニューだった
- 教科書としては、覚えたことを使う先が消えた。梯子は中段までしか架かっていない
- 中段の街には、住居と教室と試着室の三つの役割があった。一つの島が消えると、三つとも一緒に消えた
シリーズ全体を一言で言えば、こうなる。
期待値が下がり、分散が上がった。後者は前者を見えなくするために起きた。そして還元は、還元したことが見える場所にだけ残った。
七回を通して書いてきたのは、答え合わせができなくなったという話だった。だとすれば、書いた側にも同じことが要る。各回の末尾に、間違っていた場合に何が観測されるはずかを一つずつ置いてある。 どれかが観測されたら、その記事は死んでいる。
私が好きでもないジャグラーを打っているのは、面白いからでも、思い入れがあるからでもない。今そこにしか、還元と還元を確認する手段が同時に存在しないからだ。
そして私は、そこへ流れ着いた住人の一人にすぎない。
いつかその島も判別できなくなったら、また別の場所を探すことになる。見つかるかどうかは分からないが。
タレブ著。七回を通して書いてきたのは、答え合わせができなくなったという話だった。運と実力を区別できないという主題を、正面から扱った本を挙げておく。
このシリーズ(全7回)
番外編.固定釘と設定付きパチンコ


