若い頃の私は、高設定を掴んだ日は水分を控えていた。トイレの回数を減らすためだ。食事も抜いた。1日に3回しか席を立たないまま閉店を迎えることも、しょっちゅうあった。
当時はそれを正しい立ち回りだと思っていた。1回転でも多く回せば期待値は積み上がる。離席はその損失だ。だから座り続けるのが最適解であり、それを我慢できるかどうかがプロと素人を分けるのだと本気で考えていた。
計算そのものは間違っていない。ただ、あの計算には入っていない項目があった。
この記事は健康の話に見えるだろうが、中身は計算に入れ忘れていた項目をどう見積もるかという話だ。いつもの記事と、やっていることは変わらない。
なぜ「打つ時間を減らせ」と書かないのか
世の中の座りすぎ対策は、たいてい「座る時間を減らしましょう」で終わる。だがそれは、座る時間を自分で選べる人向けの助言だ。
この記事は「減らせない人」「減らしたくない人」に向けて書いている。プロ、実践動画を撮るYouTuberや配信者、そして高設定を掴んだら閉店まで打つと決めている人だ。この人たちの事情はデスクワーカーとはかなり違う。
稼働時間がそのまま収入になる。 期待値は回した分だけ積み上がるのだから、離席には金額が付いている。一般の健康記事が想定している「ちょっと立ちましょう」にはコストがない。ここにはある。
カメラが回っていれば、なおさら難しい。 席を外した時間は動画として使えない。連チャン中に消えれば見どころを失う。閉店まで打つ、全ツッパといった企画は、離席の余地をさらに削る。立ち上がる姿は、どう撮っても編集で切られるだけだ。構造として動く動機がひとつもない。
そして頻度が違う。 私は今、月に数回しかホールに行かない。プロやYouTuberは月に20日も25日もこれをやる。同じ対策をしていても浴びている量が10倍違う。
一番厄介なのは、この働き方には何のルールもないことだ。職場で長時間画面に向かう仕事には、厚生労働省の「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」があり、労働安全衛生法がある。休憩の目安も定められている。だがホールで10時間打つ仕事には、それに相当するものが何もない。
自分で自分に基準を作るしかない。この記事はそのための材料だ。
先に、ひとつ断っておく
以前の記事に書いたが、昔一緒に稼いでいたパチプロのうち3分の1くらいはもう亡くなっている。30代や40代で亡くなった人も多い。
ただし座りすぎのせいだと言いたいわけではない。
喫煙、飲酒、睡眠時間、食事の不規則さ、当時の受動喫煙環境。あの集団の死亡率を座位時間だけで説明するのは、どう考えても無理がある。この記事の後半で、テレビを観る時間について「不健康な生活習慣の目印にすぎないかもしれない」と疑う場面が出てくる。同じ厳しさを自分の話にも向けなければ、筋が通らない。
あれは「座りすぎが人を殺す証拠」ではない。この働き方には、まとめて色々乗ってくるという話だと受け取ってほしい。

この記事で扱うものには「体感」がない
これまで書いてきた健康記事には共通点がある。「痛いこと」だ。
肩こり、肘の痛み、脚のむくみ。痛いから気づけるし、対策すれば楽になるから、効いたかどうかも自分で分かる。カーフスリーブを履いた日と履き忘れた日で、打ち終わりの疲労感が明らかに違う。あれは体感で確かめられる。
今回扱うものには、それが一切ない。
- 食後に血糖値が跳ね上がっても何も感じない
- 自覚症状のない血栓は、できても分からない
- 代謝の変化は数十年後にしか表に出ない
対策しても効いた実感がない。むしろ対策しなかった日のほうが「今日は調子が良かった」と感じることさえある。体感は、この領域では役に立たないどころか、逆を向くことがある。
だからこの記事の本題は座りすぎそのものではない。体感が使えない領域で、どう行動を決めるかだ。「急にブドウが悪くなった」と感じることと、実際に確率が変わったかどうかは別の話だ。体感が当てにならないから、数字で判断する。それを体に対してやろうとしている、というだけの記事だ。
座位時間は単独では読めない
よく引用される数字がある。45歳以上のオーストラリア人22万人を追跡した調査で、1日8〜11時間座る人は死亡リスクが15%、11時間以上座る人は40%高かった。朝から閉店まで打てば10時間や12時間は普通に超えるので、数字だけ見れば私たちは迷わず一番上に入る。
ただ、この数字だけを見るのは、ブドウ確率だけで設定を判別しようとするのと同じくらい危うい。
運動量を加速度計で客観的に測り、座位時間との組み合わせで分類した解析がある。4か国・9つの追跡調査・44370人を統合したものだ。結果はこうだった。
- 運動量が最も少ない層で、座位時間が最も長い群は、死亡リスクが2.63倍(95%信頼区間 1.93〜3.57)
- 運動量が最も多い層では、座位時間が長くても、リスクの上昇が統計的に確認できなかった
- 座位時間と死亡の関連を弱めるのに必要な運動量は、1日あたり約30〜40分の中強度活動
中強度とは、会話はできるが少し息が上がる程度の運動だ。早歩きがこれに当たる。
以前は、この必要量は1日60〜75分と見積もられていた。運動量を本人の申告に頼っていたからで、機械で測ると30〜40分に下がった。現実的に手が届く量になったと考えていい。
そのうえで、断りが2つある。
「上昇が確認できなかった」は「上昇がない」ではない。 その群の信頼区間はかなり広く、下振れも上振れも含んでいる。運動でカバーできるという結論は、そこまで強くない。
そして私たちは、この研究の観測範囲の外側にいる。 この研究で座位時間が最も長い三分位の中央値は、コホートによって1日10.2時間または11.3時間だった。朝から閉店まで打つ日はそこを超える。範囲の外で線がどう伸びるかは、この研究では分からない。
つまり座位時間は、それ単独では読めない指標だ。問題は「10時間座ること」ではなく「10時間座って、なおかつ運動していないこと」だ。2.63倍が付いているのは、後者の組み合わせに対してだ。
もうひとつ先に言っておく。この記事でこれから紹介する対策の大半は、死亡リスクの話ではない。 ホールの中でできることは、基本的にその日の血糖と血流に限られる。上の30〜40分は、ホールの中では稼ぎにくい。終盤でここに戻る。
同じ座位でも文脈で結果が逆転する
座位を「何をしている時間か」で分けて調べた研究がある。糖尿病や心血管疾患の診断がない豪州の成人3429人を、職業・移動・テレビ視聴・余暇のパソコン使用の4つに分けたものだ。
総座位時間を同じに揃えて比べると、テレビ視聴とパソコン使用による座位は心血管代謝リスクの有意な上昇と関連し、職業上の座位は有意な低下と関連した。
同じ時間座っていて、方向が逆に出る。座っている時間そのものが害の本体ではない、というかなり強い証拠だと思う(ただし、ある時点で一斉に測った断面研究なので、因果関係までは言えない)。
では、テレビの座位に何が付いているのか。有力な説明は4つある。
- タイミング : 一日で最も大きい食事の直後に座り続けている
- 中断のなさ : 仕事中の座位は会議やトイレで途切れるが、テレビはそれが起きにくい
- ながら食い : 画面に集中しながらの無意識な間食
- 他の要因との混在 : テレビ視聴が、そもそも不健康な生活習慣の目印になっている可能性
大事なのは、この4つのどれにも「画面を見ること」が入っていないことだ。テレビが危ないのではなく、テレビに付いてくる座り方が危ない。
では、パチスロはどうか。
| 危険因子 | パチスロでは | 判定 |
|---|---|---|
| ながら食い(固形物) | 周囲の目もあり、店のルールで禁じている場合もある | 当てはまらない |
| 加糖飲料 | 飲み物は許されている。加糖コーヒーや栄養ドリンクを飲みながら打つ人は多い | 場合により |
| 食後の長時間座位 | 休憩所で食事を済ませ、席に戻って数時間座り続ける | 完全に当てはまる |
| 中断のなさ | 1日に数回しか立たない人は珍しくない | 当てはまる |
| 活動時間の置き換え | 1日10時間以上をホールで使う | 当てはまる |
ながら食いについては、パチスロのほうがマシだ。ホールの飲食制限が意図せず健康を守る唯一のルールとして機能していることになる。騒音も光も野放しの業界に、まともな健康規制がひとつだけ偶然存在している、というのは皮肉な話だと思う。
ただし固形物の代わりに液体で戻ってくる。加糖飲料の糖は吸収が速く、食物繊維も伴わないので、血糖の面では条件が悪い。私が麦茶か水しか持って行かないのはこの理由が大きい。栄養ドリンクは糖質が多すぎるので飲まない。
そして残る3つは、全部、打ち手の側で修正できる。

離席のタイミングが逆に置かれている
座位を短い休憩で区切ると何が起きるかを調べた、有名な試験がある。
45歳から65歳の太り気味の成人19人に、20分ごとに2分だけ歩かせた。5時間で14回、合計28分。結果はこうだ。
- 血糖の上がり幅が、軽い歩行で24%、やや速い歩行で30%減った
- インスリンの上がり幅は、どちらも23%減った
たった28分でこれだけ動く。しかも重要なのは、軽い歩行とやや速い歩行に差がなかったことだ。軽いほうは時速3.2km、つまりただの散歩だ。急ぐ必要はない。
注目してほしいのは、この試験が介入した時間帯だ。飲み物を摂らせてからの5時間。つまり食後こそが、効果が確認されている窓になる。
ところがホールでは、腹が減ったから席を立ち、休憩所で食事を済ませ、台に戻ってそこから何時間も座り続ける。動くべき時間帯の直前に立ち上がって、動くべき時間帯に座っている。

意識しなければ必ずこの順序になる。構造的にそうなっている。だから、こうしたい。
- 食べ終わってすぐ台に戻らず、数分だけ歩いてから戻る
- 食後の1〜2時間は、席を立つ間隔を短めにする。それ以降は空けてよい
一律に1時間に1回ではなく、食後だけ密度を上げる。 なぜこれが重要なのかは、次の次の節ではっきりする。
立てば解決、ではない
立つだけの休憩はどうなのか。7つの試験をまとめた解析が答えを出している。
- 立位による中断 : 食後血糖は有意に低下(効果量 −0.31)。インスリンと血圧には有意な効果なし
- 軽い歩行による中断 : 血糖(−0.72)もインスリン(−0.83)も有意に低下
- 両者を直接比較すると、歩行のほうが血糖でもインスリンでも有意に優れていた
つまり立位が無意味なわけではない。だが効果は歩行の半分以下で、インスリンには届いていない。
ホールにたまにある立ちスロも、そこに落ち着く。座り続けるよりはいい。だが歩く代わりにはならない。座ったままふくらはぎを動かしているほうがマシ、という可能性さえ残る。
ただし腰については話が別だ。
腰については、定番の説明が揺らいでいる
「座位は立位より椎間板(背骨のクッション)にかかる圧力が高い」という説明は、昔から使われてきた。だが、この根拠は思ったほど固くない。
2022年に、体の中で椎間板の圧力を測った研究をまとめた解析が出ている。全体を統合すると、確かに座位のほうが圧力は高い。 ところが1990年以降に発表された研究に限ると、両姿勢に差がない。椎間板が傷んでいる人でも差がなかった。
ただし、この解析の著者自身が慎重な書き方をしている。1990年以降に体内測定を行った研究は3件しかなく、被験者は合計21人だ。 だから「昔の説明が覆った」とまでは言えない。言えるのは、測定が新しくなるほど差が消える傾向がある、という程度だ。
いずれにせよ、腰の話を「座位は圧力が高いから悪い」の一言で片付けるのは、もう安全ではない。
では、姿勢を変えると腰が楽になるという実感は何なのか。1999年に実測をした研究者自身が、論文の結論でこう述べている。姿勢を絶えず変え続けることが、椎間板に栄養を届けるために重要である。
椎間板には血管が通っていない。姿勢の変化による圧の上下でしか、水分と栄養が出入りしない。だから動かないこと自体が問題になる。
この記事の中心命題
ここで、血糖の話と腰の話が同じ結論に着く。
座っていることが罪なのではない。何時間も同じままでいることが問題なのだ。
「40分に1回」は妥協点であって、最適値ではない
ここまでは研究の話だ。だがホールにはホールの事情がある。
証拠が最も強いのは20分ごとの休憩だ。 そしてホールで10分や20分おきに席から消える人間は、どう見ても目立つ。うろうろしやがってと思う人もいるだろう。台間は狭く、隣との距離は近い。大きく足を動かせば迷惑になる。立ったり座ったりを繰り返せば不審者だ。撮影しているなら、なおさら見せられる動きではない。ここには、ルール以前にマナーとモラルがある。
一方で、こういう感覚もある。40分から1時間に1回なら、まったく不自然ではない。 むしろ必死さがなくて、プロっぽく見られにくいくらいだ。目立つのは短い間隔で消える動きであって、1時間に1回トイレに立つ人間を気にする者はいない。
ここで研究のほうも歩み寄ってくれている、と書きたいところだが、正確ではない。中高年を対象にした解析の実践的な指針は、対象によって数字が分かれていた。
| 対象 | 推奨される間隔 |
|---|---|
| 過体重・肥満・2型糖尿病の人 | 20〜30分ごとに2〜5分 |
| 代謝的に健康な人 | 30〜60分ごとに立位または軽い運動 |
30〜60分というのは、健康な人向けの数字だ。 そして肥満成人を対象にした別の解析では、30分以下の高頻度の休憩のほうが、30分を超える低頻度より血糖の低下が大きかったと報告されている(インスリンなど他の指標では差がなく、確実性は低いという但し書き付きだが)。
つまり、こういうことになる。
しかも体重や血糖に不安がある人ほど、本当は間隔を詰めたほうがいい。 だが詰めれば目立つ。この矛盾は解けない。
解けないなら、限られた回数を、効く時間帯に寄せるしかない。
これが、ひとつ前の節で書いた「食後だけ密度を上げる」の意味だ。全体の頻度を上げられないなら、効果が確認されている窓に集中させる。理想の頻度を実行できないという制約から、逆算して出てくる唯一の答えがこれだった。
対策は2層に分ける
制約から逆算すると、対策は自然に2層になる。見える動きと見えない動きだ。
見えない層:座ったままできる動き(高頻度)
足裏を床に付けたまま、母指球で床を前下方に押す。結果としてかかとが上がる。 それを繰り返す。
「かかとを上げる」と意識するのではなく「母指球で押す」と意識するのがコツらしい。研究チームは、ふくらはぎを持ち上げるイメージだと別の動きになると明言している。
これを勧める理由は効果の大きさではない。費用がゼロだからだ。
- 期待値のロスがない(打ちながらできる)
- 副作用がない
- 見えにくいので、目立つ心配が少ない
- 台間が狭くても隣に当たらない
- カメラが回っていても映像にはほぼ映らない
効果が不明でも、失うものがゼロなら、やらない理由がない。 判断としてはそれだけの話だ。
根拠についても正直に書いておく。2022年に、この動作でふくらはぎの奥にあるヒラメ筋の代謝を数時間高く保てるという報告が出て、食後血糖の上昇が大きく抑えられたとされている。ただしこの数字は当てにしないでほしい。
- 被験者は25人。しかも4時間半ぶっ通しで動かし続けている
- 追試はまだ乏しい(2025年にハンガリーの研究チームが前糖尿病の10人で追試を行っており、独立した検証は始まってはいる)
- 論文からは、何回をどれくらいの時間やればいいのかが読み取りにくい。臨床医からも同じ指摘が出ている
- 研究チームには、この動作に関する米国特許がある。 論文の翌年に登録されたもので、発明者は筆頭著者、権利者はヒューストン大学だ。研究チームは専用サイトとYouTubeチャンネルも運営して普及に努めている。研究が間違いだという話ではないが、「正しくやるには専用の技術が要る」という主張と、その技術の権利を持っていることは、セットで見ておいたほうがいい
私がこれをやっているのは研究を知る前からの習慣であり、続けているのはコストがゼロだからにすぎない。もし効果がゼロでも、失うものもゼロだ。 私が勧める理由はそこだけだと思ってほしい。
なお、その場でのハーフスクワットやふくらはぎ上げ、尻の筋肉の締め付けを30分ごとに3分行った試験では、軽い歩行とほぼ同等の血糖抑制効果が出ている。ただしこちらは椅子から立ち上がって行うので、ホールでそのままやるのは難しい。
見える層:実際に歩く(低頻度)
40分から1時間に1回、2〜5分歩く。速く歩く必要はない。 血糖に対しては、それで足りている(終盤で条件をひとつ足す)。食後の1〜2時間だけ間隔を詰める。
ここで大事なのは、立つ口実に名前を付けておくことだ。「ついでに歩く」だと実行されない。行き先を決めておいたほうがいい。
- トイレ
- 飲み物の買い足し、空き缶・ゴミの処理
- ホール全体や島の出玉状況チェック
- ATM、換金
- 撮影しているなら、機材の確認や休憩カットの撮影
喫煙者は喫煙所へ通うので、害を受けている割に離席回数だけは多い。ハイエナのように期待値のある台を探して歩き回るのは、モラルはさておき健康面ではきわめて優れた立ち回りだ。非喫煙者で自分の台に張り付くタイプが実は一番動いていない。
装備:カーフスリーブ
ここは思っていたより強い証拠があった。
医学の研究をまとめて評価している国際的な組織(コクラン)のレビューでは、12件の試験・2918人のデータから、4時間を超えるフライトで着圧ストッキングが自覚症状のない血栓のリスクを下げると、高い確実性で認められている。
両脚に着用した試験の追跡データ2637人のうち、血栓ができたのは50人。そのうち着用していた人は3人、していなかった人は47人だった。
ただし留保が3つある。
これは航空機の環境で得られた知見だ。 機内は気圧が低く、シートベルトがあり、中央席なら立つことすらできない。
死亡や重い合併症への効果は評価できていない。 試験期間中にそれらが一件も起きなかったためだ。「着けると血栓ができにくい」までは言えるが、「着けると死なない」は言えない。
そして、試験で使われたのは足部まで覆う着圧ストッキングであって、カーフスリーブそのものではない。 段階的に圧をかけるという原理は同じだが、試された製品は違う。効果の面で確かなのは、面倒なほうだ。
それでも私がカーフスリーブを勧めるのは、効果ではなく続けやすさを取っているからだ。履かないストッキングより、履くカーフスリーブのほうがマシ、というだけの話であり、それはこの記事の結論とも一致している。
商品選びは別記事に書いてあるので、そちらを参照してほしい。

水分:控えない
長距離フライトで血栓のリスクが上がる条件として、狭い座席、自由に立てない事情、そしてトイレを減らすための水分制限が挙げられる。
この3つは、昔の私にすべて当てはまっていた。 機内なら数時間で終わる話を、10時間以上やっていたことになる。
今は逆にしている。カフェインの入っていない麦茶を持って行き、意識的に多めに飲む。少ない日でも500mlを2本、水が無料のホールならさらに数杯。当然トイレは増えるが、その離席自体が見える層の対策になるので二重に都合が良い。
食事と水分の詳細は糖尿病の記事に書いているので、ここでは繰り返さない。
一覧
| 対策 | 研究デザイン | 効くもの | いつ決まるか |
|---|---|---|---|
| カーフスリーブ | 介入試験・多数(航空機・短期指標のみ) | 下肢の血流 | 朝、履いた時点 |
| 水分を控えない | 間接的(血栓の危険因子として) | 血液の粘度、離席回数 | 朝、鞄に入れた時点 |
| かかとの上げ下げ | 介入試験・少人数(追試は途上) | 食後血糖(不確か) | その場で思い出せたら |
| 40〜60分に1回、2〜5分歩く | 介入試験・複数 | 食後血糖、姿勢の固定 | その場で思い出せたら |
| 打たない日の30〜40分 | 観察研究のみ(因果は保証されない) | 長期の死亡リスク | 別枠 |
ここで注意しておきたいのは、因果関係が示されているのは、その日の血糖と血流だけだということだ。
人を割り付けて比べられるのは短期の指標に限られる。死亡リスクのほうは、何十年も追跡して相関を見ているだけで、運動する人がそもそも健康なのかもしれない。
効果の数字が派手に見えるものほど根拠が弱く、射程が長いものほどデザインが弱い。設定判別と同じで、一番知りたいことが一番測りにくい。そして表の右端が次の節の話になる。
続けられるかどうかが最大の問題
ここまで読んで、こう思った人がいるはずだ。「そんなの覚えていられない」と。その通りで、ここが一番弱い部分だ。
私がかかとを動かすのは「気づいた時」だ。裏を返せば、気づかない時はやっていない。そして高設定を掴んで熱くなっている時ほど気づかない。対策が必要な日ほど、対策が実行されない。
私はスマートウォッチに投げている

ホールに行く時は、スマートウォッチを着けている。1時間動いていないと振動で知らせてくれるので、覚えておく仕事を機械に任せられる。しかも動きを検知するとそこを起点に測り直すので、トイレから戻った直後に鳴る、ということがない。
使っているのはファーウェイの安いモデルだ。店内の騒音の中で振動に気づけなかったことはないし、充電も10日に1回で済んでいる。機能には満足している。
ただし、人に勧めるかというと微妙だ。
ファーウェイは米国の制裁の影響で、専用アプリが Google Play にない。公式サイトから直接インストールする必要がある。慣れていれば数分の作業だが、スマートウォッチが初めての人には、最初の一歩で嫌になる工程だと思う。私も設定には少し手こずった。
他の機種を使っていないので比較はできない。ただ、選ぶなら見ておいたほうがいい点が2つある。
ひとつはアプリが普通にストアから入るか。これは買う前に確認できる。
もうひとつは鳴る仕組みだ。「1時間ごとに、その時間の歩数が足りなければ鳴る」という時計基準の製品がある。この方式だと、席に戻った直後にも鳴ることがある。必要のない通知が混ざると、人は通知そのものを無視するようになる。 座りっぱなしの環境で使うなら、最後に動いてからの経過時間で鳴るほうが向いている。
そもそも必要なのは「一定時間ごとに振動すること」だけなので、振動式のタイマーで代用してもいい。ただし手首以外に付けるものが多く、店内の騒音の中で気づけるかは試してみないと分からない。スマホのアプリも同じで、ポケット越しの振動は気づきにくい。
機械を買えば解決、でもない
デバイスを渡すだけでは効かないという試験結果がある。 退職直後の231人に、55分動かないと振動する活動量計を12か月間着けさせた試験では、1日の座位時間はまったく減らなかった。私が使っているものと、ほぼ同じ仕組みだ。
一方で、座位時間の長い成人59人を、何もしない群・デバイスだけの群・デバイスに加えて専門家との面談を受けた群に分けた試験がある。12週間後、面談を併用した群は座位が減り、活動が増え、体脂肪率や中性脂肪、食後のインスリン値まで改善した。デバイスだけの群には、有意な変化が何もなかった。 同じ機械を渡して、片方に「なぜやるのか」を足しただけで数値まで動いている。
ただし公平を期すなら、否定的なほうの試験のほうが規模も期間も上だ。 231人を12か月と、59人を12週。面談を足しても差が出なかったという報告もある。結果は一枚岩ではないし、自分に都合の良い材料だけを並べるのはフェアではない。
通知は引き金であって、解決ではない。 鳴った時に立つかどうかは、結局こちら側の問題だ。1年経てば大半の人は通知を無視するようになる。
だから、買う前にやることがある。今すでに何か持っているなら、まずその設定を見てほしい。 この機能は初期状態でオフのことも多いし、オンでも意味を知らずに無視している人が多い。
私は続いているが、それはたぶん、私が元々そういう性分だからだ。立ち回りでも一度決めたルールは守るほうだし、そもそもパチスロの統計記事を何年も書いているような人間が「続けるタイプ」なのは当然だろう。この記事を書いている人間は、続けられる側に偏っている。 そこは差し引いて読んでほしい。
効く順と、続く順は逆を向いている
素直に受け取ると、優先順位は「効果の大きさ」では決まらない。忘れても効くかどうかで決まる。
並べ直すと、面倒な事実が出てくる。根拠が強い対策ほど、その場で思い出す必要がある。 歩くのも、かかとを上げるのも、通知に応じるのも、全部そう。逆に、意志を要しない2つ、カーフスリーブと麦茶はどちらもホールに入る前に終わっている。

だから運用のルールは、こう置くのが素直だと思う。
朝の準備には熱くなるという概念がない。連チャン中でもない。忘れる余地が構造的にない。ここを埋めておけば、その場の判断に頼る部分が減る。
ただし「履けば十分」と読まないでほしい。着圧が扱っているのは下肢の血流で、血糖ではない。歩くことの代わりにはならない。意志を必要としない一枚目として置く、という話だ。
この記事自体は、上の試験でいう「面談」の側を担当しているつもりだ。仕組みを知らずに便利な道具だけ渡されても、人は飽きる。何が体に何をしているのかが分かっていれば、続けやすくなる。少なくとも私はそうだった。
ホールの中では完結しない
最後に、都合の悪い話を3つ書く。
1つめ。 上で紹介した休憩の研究が測っているのは、その日の血糖やインスリンだ。研究室で5時間座らせた実験と、実際のホールでの10時間は違う。普段の生活の中で意味のある差が出るかは、まだはっきりしていない。
そしてもうひとつ、この記事の中心命題に直接刺さる結果がある。「こまめに動く」と「まとめて1回運動する」を、消費カロリーを揃えて比べた解析だ。 結果は、こまめに動くほうが血糖にわずかに有利、という程度だった。
つまり分割すること自体の上乗せは、あまり大きくない。 効いているのは中断そのものというより、動いた総量なのかもしれない。私は「効いているのは変化だ」と書いたが、その変化がどれだけ効いているかについては、控えめに見ておいたほうがいい。
2つめ。 ホール内の対策は、そのままでは死亡リスクの相殺に届かない。前半で触れた1日30〜40分の中強度活動に、時速3.2kmの散歩は含まれない。

図に点線で示した通り、2つの口座は完全に分かれているわけでもない。
加速度計が測る中強度活動は、どこで発生したかを区別しない。 強度が足りていれば、ホールで歩いた分も入る。同じ行動が両方の口座に効くことがあるわけだ。
問題は速度だ。先の試験で「やや速い歩行」とされたのは時速5.8〜6.4kmで、これは相当な早足になる。混雑した島をその速度で3分歩き回れば、この記事が1章かけて避けようと書いた「目立つ動き」そのものだ。データ機の巡回や空き台の下見という口実とも、速度が合わない。
だから、速度を出す場所を変える。軸は店の内か外かではなく、「見られているかどうか」だ。台間は見られている。駐車場、建物の外周、階段は誰も見ていない。喫煙者が1時間おきに外へ出るのを誰も不審に思わないのだから、離席の行き先を外に取ること自体は不自然ではない。
断片の積み上げについても、根拠はある。2018年の米国身体活動ガイドライン第2版は、それまであった「10分以上まとまった運動」という要件を撤廃した。総量が効くのであって、まとまりは必須ではないという結論に変わったからだ。3分を10回でも積算される。
まとめると、血糖に対しては速度は要らない。だが死亡リスクの口座に入れたいなら速く歩く。速くしても血糖の効果は落ちないのだから、出せる場所では出したほうが得だ。
それでも、確実に言えることは残る。稼働日に30〜40分を全部埋めるのは、まず無理だ。 離席の全部を外に取って速く歩けるわけではないし、朝から閉店まで打って帰宅後に30分歩ける人もほとんどいない。月に25日稼働する人が残りの数日で全部を賄うのも無理がある。だから、打つ時間を削らずに埋められる場所を探すしかない。
- ホールまで歩いて行く。一駅前で降りる
- 駐車場を意図的に遠くに取る
- 閉店後、そのまま車に乗らずに一周する
移動を歩きに変えるのが、唯一コストがゼロの枠だ。私が「根拠が弱い日は打たない」と書いてきたのは期待値の話だったが、結果としてそれが回復日を作る判断にもなっていた。
3つめ。 体が壊れると、収支より先に判断が壊れる。集中が落ちれば数え間違いが増える。疲れていれば撤退の判断が鈍る。苛立てば深追いする。下振れ期に人が降りるのは、資金が尽きるより先に判断が壊れるからだ。この話は射程が広いので、いずれ別に書く。
まとめ
若い頃の私は、水分を控え、食事を抜き、1日3回しか立たずに閉店まで打っていた。
今は麦茶を2本持って行って意識的に飲み、40分から1時間に1回は席を立ち、時計に叱られながら歩く。カーフスリーブを履き、椅子ではかかとを動かしている。
同じ人間だ。変わったのは、「知っていることだけ」だ。
長時間打たなければならない人に言いたいことがあるとすれば、体を大事にしろという話ではない。足りていないのは症状ではなく、時間軸だということだ。
若い体は何も言ってこない。座り続けても食事を抜いても、翌日には回復する。だから何も起きていないように見える。だが、返事が来ないことと、記録が取られていないことは別の話だ。
これは私たちが一番よく知っている構造でもある。1日打っただけでは機械割は現れない。同じことを何百日と繰り返して、ようやく差が出る。体も同じで、しかも回収に何十年もかかる。そして期待値を積み上げている途中で体か判断が先に降りてしまえば、計算した分は一度も回収されない。
小銭を稼ぐために健康を削るのは割に合わない。これは道徳の話ではなく「計算の話」だ。
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