久しぶりにパチンコを打った人が、だいたい同じことを言う。
「一瞬で球がなくなった」
私はこれを、しばらく大げさな表現だと思っていた。感覚の話だろうと。昔より回らないのは事実だが、球が消える速さそのものがそんなに変わるものだろうか、と。
計算してみたら、この人たちの言っていることは正確だった。ただし、正確なのは結論だけで、原因は本人たちが思っているものとは違う。
これから何回かに分けて、その話を書きたい。
球が消える速さは、ほとんど変わっていない
まず、体感の元になっている「速さ」を確かめておきたい。
前提を置く。発射は毎分100発、1000円は250玉。ヘソに入った分の賞球も打ち出すものとし、一般入賞口からの戻りはゼロとして計算する。実際には一般入賞口からも多少は戻るので、以下の数字はどちらの時代も少し辛めに出ている。
| 1000円あたりの回転数 | ヘソ賞球 | 1000円が尽きるまで | |
|---|---|---|---|
| かつて(2008〜2012年頃) | 21.5回 | 3個 | 3.1分 |
| 今 | 15回 | 1個 | 2.7分 |
16%しか変わっていない。
3分が2分半あまりになったところで、人は「一瞬で消えた」とは言わないだろう。体感の正体は速度ではない。
では何が変わったのか。その前に、この6.5回転の差がどこから来たのかを分解しておきたい。
回らなくなった原因の4割は「釘」ではない
上の前提から逆算すると、ヘソへの入賞率はかつて6.84%、今は5.66%になる。17%の低下だ。ここに賞球数の変化が重なっている。
片方だけを動かすと、こうなる。
| 動かす順序 | 賞球3→1の効果 | 釘・盤面(入賞率)の効果 |
|---|---|---|
| 賞球を先に | 21.5 → 18.3(−3.2) | 18.3 → 15.0(−3.3) |
| 釘を先に | 17.0 → 15.0(−2.0) | 21.5 → 17.0(−4.5) |
順序によって寄与は変わるが、平均すると賞球が−2.6、釘が−3.9。およそ4対6になる。
つまり「回らないのは店が釘を締めたからだ」という理解は、少なくとも4割は外れている。そしてその4割は店の判断ではなく、機械の仕様の話だ。この点は次回でもう一度出てくる。
ヘソの払い出しが4.3分の1になった
ヘソからの払い出しを見てほしい。
かつては21.5回転それぞれに3個の賞球が付いていたので、1000円あたり64.5玉が戻っていた。250玉のうち、4分の1以上が皿に足されていた計算になる。
今は15回転に1個で、15玉だ。4.3分の1になっている。
これが「一瞬で消えた」の正体だと私は思う。速く減っているのではなく、戻ってこなくなったのだ。減り方が一方通行になれば、同じ3分でも体感はまったく違う。
念のため書いておくと、これは還元率が4.3分の1になったという話ではない。通常時から削った分は大当り側へ移っているので、総量の話はまた別になる。ここで扱っているのは、あくまで体感の中身だ。
そしてもう一つ、当たりまでの距離が伸びている。
| 初当りまでの平均投資 | |
|---|---|
| 甘デジ1/99・21.5回転 | 約4600円 |
| 甘デジ1/99・15回転 | 6600円 |
| ミドル1/319・15回転 | 約21300円 |
上の2行は釘だけを変えた比較で1.43倍。3行目は、実際に打たれている台の変化まで含めた比較で4.6倍になる。1万円あたりの初当り回数に直すと、2.17回から0.47回だ。
私の妻は、パチンコもパチスロも好きではないのに、当時の甘デジだけは好んで打っていた。理由を聞いたことがある。
「回るから球が減るのが遅いし、たくさん当たるから楽しい」
統計に何の興味もない人の言葉だが、今並べた二つの数字をそのまま指している。球が減る速さと、当たる回数。
彼女は回らなくなった時期にきっぱり引退した。低貸しにも移らなかった。単一の変数が変わり、行動が変わり、代わりを探しもしなかった。私が知る限り、これ以上きれいな観測はない。

なぜ、客はすぐに逃げなかったのか
ここで一つ、素朴な疑問が出てくる。
回転率がここまで落ちたなら、客は即座に気づいて逃げるはずではないか。実際にはそうならなかった。むしろ荒い台に人が集まった時期がある。
理由は計算で出せる。ここから先はパチスロの数字を使うが、扱っているのはパチンコと共通する仕組みの話だ。
8000ゲーム、3枚掛け、投入枚数24000枚。1日の収支がプラスで終わる確率を、正規分布で近似して出す。
| 機械割 | 1日の期待差枚 | 差枚の標準偏差 | 1日の勝率 | |
|---|---|---|---|---|
| マイルドな台 | 97% | −720枚 | 1500枚 | 31.6% |
| 荒い台 | 93% | −1680枚 | 3500枚 | 31.6% |

同じだ。
機械割を4ポイント削っても、勝率はまったく変わらない。 客が体験する「勝てた日の頻度」は1ミリも動かないまま、店は1日あたり960枚、等価換算で約19200円を多く取れる。非等価ならこれより大きくなるので、下限の数字だと思ってほしい。
これが答えだと私は思う。勝てた日の頻度は、還元率の代理指標にならない。
「あの店はたまに出る」「この台は勝てる日がある」という感想は、還元率について何も語っていない。分散を上げれば、還元率を下げながら勝率を維持できる。両立するのだ。
私はこのブログで、分散が個人の答え合わせを妨げるという話を何度も書いてきた。自分が勝っているのか負けているのかは、分散が大きいほど分からなくなる。同じことが店選びと台選びについても起きている。それだけの話だ。

苦情は出た。ただし標的が違った
面白いのは、まったく反応がなかったわけではないことだ。
甘デジには、いくつかの段階があった。黎明期はミドルをそのまま縮小したタイプや、海の遊パチのように分散の小さいものが主流だった。スーパー海物語SAEは大当り出玉が約480個、平均連チャン2.6回、賞球数は3&5&10&12。ヘソ3個返しである。
そこから、短い確変や時短のあいだに引き戻せれば出玉が伸びる、壁を越えるタイプ(突破型)が出てくる。
正直に書いておくと、この段階は歓迎されていたと思う(ガチプロを除いて)。 黎明期の甘デジはボラが低すぎるという声もあって、ある程度の一撃が期待できる台が求められていたのだ。ミドルやMAXは怖いが、ライトミドルと甘の間を埋める存在として機能していた。私自身、初代の甘戦国乙女は好きで打っていた。

大好きだった初代甘百花繚乱
だが、そこで止まらなかった。さらに分散の高い甘デジが出てくるようになり、「もう甘デジとは言わないだろう…」という声が出る機種まで現れる。
苦情が出たのは、この段階だ。
つまり、分散の上昇には途中まで需要があった。需要が止まった地点で、上昇の方は止まらなかったということになる。
そして彼らが気づいたのは、あくまで分散だ。還元率については、私の知る限り誰も何も言わなかった。
上の計算の通りである。分散は体感に出る。還元率は出ない。苦情は出るところに出て、出ないところには出なかった。
まとめ
- 球が消える速さは16%しか変わっていない
- 回らなくなった原因のうち4割は釘ではなく賞球数だった
- 変わったのは戻ってくる量で、ヘソからの払い出しは4.3分の1になった
- 分散を上げれば、還元率を4ポイント削っても勝率は変わらない
- だから、勝てた日の頻度は還元率の代理指標にならない
「一瞬で球がなくなった」と言った人は、正しく観測している。ただ、観測しているものが速度だと思っている点だけがずれている。彼らが体験したのは、還元率が下がったことそのものではなく、下がったことを見えにくくする仕組みの方だ。
では、その仕組みはどこから来たのか。
分散を上げれば還元率を下げられる。これが本当なら、機械はその方向に設計されるはずだ。次回はその話を書きたい。
このシリーズ(全7回)
- 「一瞬で球がなくなった」は正しかった
- 構造は、そのために変わった
- 昔も、座れる台は探すものだった
- なぜ緩められないのか
- 私の基準は二つだけだった
- なぜジャグラーだけに還元が残るのか
- 中段の街が消えた
番外編.固定釘と設定付きパチンコ

