台の値段が上がり、機械の寿命は短くなった。玉粗利は年々上がって、パチンコはもう終わりだという声も多い。
そのなかで、数少ない希望として挙がっているものがある。釘を締めにくい、あるいは締められない台。 そしてそこに設定を組み合わせた台だ。
どちらも、もう市場に出ている。設定付きパチンコは8年前から、釘のない盤面も6年前から。 2026年8月には、入賞率そのものを機械で固定する台が導入された。
だが、うまくいっていない。
現状を数字で見たあと、ではどういう台なら成立するのかを考えてみたい。
設定付きパチンコは出しているだけになった

設定付きパチンコの第1弾は2018年8月で、そこから8年で200機種近くが出ている。
導入年ごとに数えると、こうなる。
| 年 | おおよその機種数 |
|---|---|
| 2018 | 16 |
| 2019 | 40以上 |
| 2020 | 20前後 |
| 2021 | 8 |
| 2022 | 4 |
| 2023 | 2 |
| 2024 | 5 |
| 2025 | 1 |
| 2026 | 5 |
2019年がピークで、2021年から2023年にかけて崩壊している。
出始めた頃は、私も何度か上の設定に座って「おっ」と思った記憶がある。今は違う。クソ釘と低設定の組み合わせでしか運用されていない台が、置いてあるだけになっている。
先に順序を決める
「クソ釘と低設定」と書いた。この二つは別の問題だ。
釘が締まっていれば、設定が何であろうと回転数は伸びない。そこは店の調整の話になる。
一方、設定がいくつなのかを客が見抜けるかどうかは、機種の設計の話だ。仮に釘が全台同じに固定されても、その台が設定6なのか設定1なのかは、依然として分からない。
だから釘を直しても、設定を見抜けるようにはならない。逆も同じで、見抜けるようになっても釘が締まっていれば勝てない。両方が要る。
この記事では先に設定の側を見て、釘は最後に扱う。そちらはそちらで、2026年に大きな動きがあった。
判別信号より、出玉信号の方が大きい
パチスロと同じように、高設定なら大当り確率が軽くなる。理屈の上では判別できるはずだ。
なぜできないのか。数字で見る。
その前に、断っておくことがある。設定示唆演出はある。大当り終了画面や特定の予告で、設定4以上や設定6濃厚が示される機種は多い。まったく分からないわけではない。
ただし、それは座った人にしか見えない。
ジャグラーなら、島を歩けばデータランプのREG回数が見える。座る前に、全部の台について設定をある程度は推測できる。 パチンコの設定示唆・確定演出は、座って、打って、当たって、初めて出る。
だからここで数えるのは、「座る前に見えるもの」だけになる。データランプに出ている総回転数と大当り回数だ。比の分子と分母が両方揃っているので、原理的には計算できる。
ここで二つの量を定義する。
判別信号は、設定1と設定6で大当り回数が何倍違うか。客が無料で読める部分の大きさになる。
出玉信号は、設定1と設定6で収支率が何倍違うか。その台に座ったときに、勝ち負けがどれだけ変わるかの大きさになる。
そして判別信号を出玉信号で割った値を、増幅と呼ぶことにする。
なぜこの割り算に意味があるのか。設定を見抜くには、見抜けるまで打ち続けないといけないからだ。
その間、もし低設定を掴んでいたら、ずっと損をしている。判別信号が小さいほど、見抜くまでに長く打つことになる。 そして出玉信号が大きいほど、その間の損が大きい。
増幅は、見抜くまでにかかる損と、見抜いたときの得の比になる。
判別力そのものはZ値で示す。設定1の期待回数と設定6の期待回数の差を、両者を合わせたばらつきで割った値になる。Z=2で統計的に有意、Z=1以下ならほぼ判別不能と考えてほしい。
試行回数の前提を揃えておく
パチスロは1日8000ゲーム回るが、パチンコの通常時回転数は2500前後だ。 電サポ中は別勘定になるので、設定判別に使える通常時の試行は、パチスロの3分の1以下になる。
ただし、事象の回数では負けていない。
| 1日の回数 | |
|---|---|
| ジャグラーのREG(1/410 × 8000G) | 19.5回 |
| パチンコの大当り(1/99 × 2500回転) | 25.3回 |
大当りが軽いので、回転数の少なさを補っている。むしろ多い。
違うのは設定差の大きさだ。同じ25.3回でも、設定差が何倍かで判別力はまるで変わる。
| 設定差 | 1日のZ |
|---|---|
| 1.11倍(設定付きパチンコの実機) | 0.39 |
| 1.50倍 | 1.59 |
| 1.65倍 | 2.01 |
| 1.79倍(ジャグラーのREG) | 2.38 |
なお、以下のZ値はすべて1日打った場合の値になる。ジャグラーですら、2500ゲームまでならZ=1.17で判別が成立しない。 短時間で読める台は、そもそも存在しない。
| 判別信号 | 出玉信号 | 増幅 | 1日のZ | |
|---|---|---|---|---|
| ジャグラーのREG | 1.790倍 | 1.130倍 | 1.58 | 2.09 |
| PAナナシー お江戸77 | 1.106倍 | 1.218倍 | 0.91 | 0.41 |
| PA乗物娘 59ver. | 1.124倍 | 1.235倍 | 0.91 | 0.55 |
| P中森明菜 BLACK DIVA | 1.111倍 | 1.251倍 | 0.89 | 0.40 |
設定付きパチンコは、増幅が1を割っている。
ジャグラーは1.58だ。REG回数が1.79倍も動くので早く見抜けるのに、機械割の差は1.13倍しかないので、外していたときの損が小さい。だから判別しながら打てる。
1を割ると逆になる。見抜くのに時間がかかるのに、外していたときの損は大きい。 判別しようとすること自体が割に合わなくなる。
設定付きパチンコは0.89から0.91だ。見える部分が1.11倍しか動かないのに、収支への影響は1.22倍動く。 設定6を掴んでも分からないが、設定1を掴めば大きく損をする。
そしてZは0.4前後になる。1日打っても判別が成立しない。
なぜ、見抜ける必要があるのか
先に断っておきたいことがある。見抜けるかどうかは、打ち手の都合の話ではない。
順に書く。
店が甘くしても、客に伝わらない
パチスロ、特にジャグラーのようなノーマルタイプでは、店が設定を入れるとその日のうちにデータランプに数字が出る。REG回数を見れば、島を歩いている人にも伝わる。
パチンコは違う。データランプに総回転数と大当り回数は出ているが、その台が1000円で何回転するのかは、どこにも出ない。 釘を見れば分かる人もいるが、それは技能であって、訓練した人間にしか払えないコストになる。
つまり店が釘を開けても、それが伝わるには、釘を読める人間が来て、気づいて、稼働や口コミの形で広まるのを待つしかない。
設定示唆・確定演出も、ここでは助けにならない。座った一人にしか見えないからだ。 島を歩いている人には届かない。
一方、締める判断は速い。日々の粗利で決まる。
甘くしたことが伝わる速度が、締める判断の速度より遅い。 パチンコで抜けるが戻せないのは、これが理由だ。
伝わらないなら、広告にならない
高設定というのは、店にとって広告宣伝費のようなものだ。客に「この店は出す」と思ってもらうために、費用を払って入れる。
だとすれば、見られない広告に意味はない。 費用だけが出ていって、効果がゼロになる。
だから設定を見抜けない台には、そもそも入れる理由がない。入れなくても客が来るから入れない、というだけではない。入れても広告にならないから入れないのだ。
だから、設定が見抜けない台に高設定は入らない
| 見抜ける台 | 見抜けない台 | |
|---|---|---|
| 誰に伝わるか | 島を歩く全員 | 座った一人だけ |
| いつ伝わるか | 座る前 | 座った後 |
| 店が甘くしたとき | その日に伝わる | 伝わらない |
| 入れる動機 | 広告になる | ならない |
入れても伝わらないなら、入れる理由がない。 それが、設定を見抜けない台の状態になる。
設定示唆演出があっても、この表は変わらない。座った一人に伝わることと、島に伝わることは別だ。
前の節で見た増幅0.89から0.91という数字は、設定付きパチンコがその状態にあることを意味している。
そして冒頭で見た通り、設定付きパチンコは2019年をピークに崩壊した。見抜けないことと、高設定が入らなくなったことは、たぶん同じ現象の表と裏になる。
では、なぜ見抜けないように作られているのか。
私は最初、メーカーの手抜きだと思った。判別しにくいように作っているのだろう、と。
半分違った。
かつては規則の帰結だった
警察庁が出している「技術上の規格解釈基準」という通知がある。遊技機規則の条文を、どう読むかを定めたものだ。
2022年3月30日版には、こう書かれていた。
「設定」を変更することにより作動確率以外の遊技機の性能が変動する場合には…「遊技の公正を害する調整を行うこと」を可能とする性能を持つものであると解するため、当該遊技機の当該性能は、別表第四(1)リ(イ)に抵触する。
設定で動かせるのは作動確率だけだった。 作動確率とは、大当り確率のことになる。
そして同じ通知に、こうある。
設定によりMH及びMLの値が異なることにより、設定ごとに異なる作動確率Mの値を持つことは、差し支えない。
MHが高確率時、MLが通常時の作動確率だ。設定を動かすと、両方が同時に動く。
つまり、こうなる。
- 大当り確率が1.11倍軽くなる → 通常時の当り回数が1.11倍(判別信号)
- 同時に確変中の確率も1.11倍軽くなる → 継続率が上がる → 出玉が1.22倍(出玉信号)
設定で動かせるものが一つしかないので、それが必ず二箇所に効く。
検算できる。PAナナシーの通常時は1/77.4→1/70.0で1.106倍、高確率時は1/12.9→1/11.6で1.112倍。ほぼ同じ比率だ。 公表されているST継続率57.6%→61.5%は、その帰結として出てくる。
継続率に設定差を付けているのではない。付けないことができなかった。
確変をなくしても同じだった
だったら確変をやめればいい。私は最初そう考えた。実機で確かめたら、そうならなかった。
PAウイニングボール(2021年9月、豊丸)は6段階設定付きの羽根モノで、大当り確率は1/4.85から1/4.10。確変もSTもない。だが公表スペックには、大当り後の残保留3個での大当り期待度が約50%(設定1)から約57%(設定6)とある。
計算すると、1−(1−1/4.85)³=50.0%、1−(1−1/4.10)³=56.8%。公表値とぴたり一致する。
つまりこれも、設定差を付けているのではない。大当り確率が動くので、残保留での引き戻し率も自動的に動いている。 増幅は0.86で、甘デジの実機と同じ場所に落ちた。
確変でもSTでもなく、残り保留が3個あるというだけで二重に効く。
2024年8月、動かせるものが四つになった
ここまでが、2024年8月22日までの話だ。
2024年8月23日、解釈基準が改正された。(警察庁丁保発第102号。従来の令和4年版は8月22日をもって廃止)
現行の条文はこうなっている。
「設定」を変更することにより作動確率及び当該変更に付随して変更される以下のいずれかの性能以外の遊技機の性能が変動する場合には…抵触する。 ・特別電動役物連続作動回数決定装置に係る抽せんの確率 ・別表四(1)ト(ト)の解釈にあるα、β又はγの値
αは高確率変動抽せんの当せん確率、βは転落抽せんの確率、γは高確率のまま抽せんを行う回数だ。日本語に直すと、こうなる。
| 設定で動かせるもの | |
|---|---|
| 作動確率 | 大当り確率(通常時・確変中) |
| N決定装置の抽せん確率 | ラウンド振り分け |
| α | 確変突入率 |
| β | 転落確率 |
| γ | ST回数 |
設定で動かせるものが、一つから四つに増えている。
そして、ここが肝心なところになる。新しく使えるようになった三つは、全部が出玉に直結する。 判別専用のものは一つもない。
だから同じ向きに使えば、増幅はさらに悪化する。
逆向きに使えば、見抜ける台が作れる
だが、逆向きに使うことができる。
高設定ほど初当りは軽く、そのかわり連チャンしにくくする。 すると判別信号だけが大きくなって、出玉信号は抑えられる。
計算するとこうなる。RUSH経由の出玉が初当り出玉の3倍あるという前提で置いた。
| 構成 | 判別信号 | 出玉信号 | 増幅 | 1日のZ |
|---|---|---|---|---|
| ジャグラーのREG | 1.79倍 | 1.13倍 | 1.58 | 2.09 |
| 1/99→1/60・突入率70%→35% | 1.65倍 | 1.09倍 | 1.51 | 2.01 |
| 1/99→1/60・突入率65%→40% | 1.65倍 | 1.23倍 | 1.34 | 2.01 |
| 1/99→1/70・突入率70%→45% | 1.41倍 | 1.07倍 | 1.32 | 1.34 |
増幅1.51で、1日Z=2.01。 ジャグラーの1.58に迫る。
そして、これは2024年8月23日以降なら規則上できる。 αが設定で動かせるようになったからだ。
だが、実機は全部同じ向きに回している
緩和から2年近く経った。実機がどうなっているかを見る。
P犬夜叉3.0 大入り 甘SPEC(2026年5月導入)は、緩和後の設計になっている。公表スペックにこうある。
設定で大当り確率とRUSH+バトルチャレンジ突入率が変化
αを使っている。2024年に追加されたものを、きちんと使っている。
問題は向きだ。
| 設定1 | 設定6 | |
|---|---|---|
| 大当り確率 | 約1/129 | 約1/119 |
| RUSH突入率 | 50.5% | 53.0% |
高設定ほど当りが軽く、しかも突入しやすい。同じ向きだった。
| 判別信号 | 出玉信号 | 増幅 | 1日のZ | |
|---|---|---|---|---|
| P犬夜叉3.0 | 1.084倍 | 1.116倍 | 0.97 | 0.26 |
Z=0.26。 1日打っても、まったく見抜けない。
動かせるものが四つに増えたのに、全部を同じ方向に使っている。 結果は緩和前と変わっていない。
規則が判別を禁じているのではない。規則は許した。そう作られていないだけだ。
逆向きにすると、別のものを失う
ただし、逆向き設計には代償がある。正直に書いておきたい。
低設定ほど分散が大きくなる。 初当りが重くて連チャンしやすい設定1は、当たりにくいが当たれば伸びる。計算すると、1日の出玉のばらつきは設定6の1.48倍になる。
判別は可能なので隠されてはいない。だが、判別せずに打つ客には逆に見える。 設定1でたまに大爆発し、設定6は地味に当たり続ける。
高設定のご褒美感も消える。 「掴んだのにつまらない」は、勝率が高くても稼働に効かない。
そしてこれは、既に試されている。6号機の黎明期には、設定1はAT初当りが重いが入れば爆発力は全設定中トップクラス、設定6は初当りが軽いが連チャンしないという台が多かった。ゲーム性としては崩れていたと言われている。
つまり、逆向き設計は技術的には成立するが、商品として成立するかは別だということになる。
中間を取る手はある。上の表の二行目、突入率65%→40%なら増幅1.34でZ=2.01。振り幅を抑えても、1日で見抜ける水準には届く。
代償なしでやるなら、判別専用の窓が要る
そもそも、なぜ代償が出るのか。判別信号を作るために、ゲーム性そのものをいじっているからだ。
ジャグラーはそうなっていない。REGは96枚しか払い出さないので、頻度が1.79倍動いても機械割は1.13倍しか動かない。大きく動くのに、出玉をあまり動かさない指標が別にある。
同じものをパチンコで探すなら、要件は三つになる。
- 頻度の設定差が大きい
- 払い出しへの寄与が小さい
- データランプに表示される
そして候補はある。小当りだ。
小当りは大入賞口を開けるだけの事象で、払い出しは開放時間と入賞数で決まる。ゼロにもできるし、ほどほどにもできる。確変やSTと違って、出玉との結合を設計者が選べる。
ただし払い出しをゼロにするのは違うと思う。頻繁に起きて何ももらえない事象は、うっとうしいだけになる。 ジャグラーのREGは96枚だ。BIGより明らかに少ないがゼロではない。同じ場所を探す。
| 小当り | 1回の払い出し | 1日の回数 | Z値 | 総払い出しに占める割合 |
|---|---|---|---|---|
| 1/80 → 1/50 | 50個 | 31回 → 50回 | 2.08 | 5.0% → 7.8% |
| 1/60 → 1/40 | 50個 | 42回 → 63回 | 2.04 | 6.7% → 9.7% |
| ジャグラーのREG | 96枚 | 19.5回 → 35回 | 2.09 | 7.1% → 11.6% |
ほぼ同じ場所に収まる。 1日31回から50回、1回50個。200円相当で、ヘソ賞球3個の16回分にあたる。
そして判別窓とゲーム性が分かれるので、上に載せるものを選べる。 低分散の確変タイプでも、短いST+時短でも、突破型でもいい。判別方法が共通なら、上物だけ替えて自分に合うものを探せる。
もう一つある。玉が減る一方だと感じるのは、戻ってくる量が減ったからだった。 1日30回から50回、まとまって玉が返ってくるなら、そこも同時に直る。

今の規則ではできない?
小当り確率は作動確率ではない。α・β・γでもない。設定で動かせば、別表第四(1)リ(イ)に抵触する。
2024年に追加されたのは、ラウンド振り分けと確変突入率と転落確率とST回数だった。全部が出玉に直結するものだ。判別専用の窓は、一つも増えていない。
だから今の規則でできるのは、前の節に書いた逆向き設計までになる。代償を払って判別信号を作るか、判別を諦めるかの二択だ。
もう一箇所だけ変えれば、代償なしでできる。 出玉にほとんど影響しない指標を、設定で動かせるようにすればいい。
規定の趣旨は「店が設定で台の性格を作り替えられないようにする」ことだった。出玉に影響しない指標を一つ足しても、その趣旨は損なわれないだろう。 店にできることは増えない。増えるのは、客が読めることだけになる。
【追記】ラウンド振り分けなら、規則は既に許している
公開後に気づいたことがある。ラウンド振り分けは、2024年の改正で設定差を付けられるようになった側だ。 小当りと違って規則の壁がない。
そして出玉への影響は設計者が選べる。10Rと4Rの振り分けを設定で変えるなら、判別信号を作りながら出玉信号を抑えることができる。
残る問題は表示になる。設定1で10回当たって4Rが1回、設定6で10回当たって4Rが5回でも、データランプの表示はどちらも「10回」だ。 座った人にしか分からない。
ただし、ラウンド別にカウントするデータランプは存在するようだ。だとすれば、足りないのは規則ではない。大当り履歴に何を残すか、という一行だ。
固定釘は何回転にすべきか
釘を固定するなら、水準を決めるのはメーカーになる。今の14〜15回転をそのまま固定するのでは意味がない。
計算すると、25回転あたりがバランスがいい。
理由は二つある。一つは1000円あたりのブレだ。ヘソ3個返しで計算すると、15回転なら相対25.2%、20回転で21.6%、25回転で19.2%になる。よく回るほど、1000円ごとの振れ幅が小さくなる。
もう一つは1日の出玉のばらつきになる。回転率とボーダーを一緒に上げると、1回の出玉が減って回数が増える。 同じ収支率でも、20回転を1として25回転なら0.89、30回転なら0.82まで下がる。
よく回る台は、それだけで分散が小さい。 ただし上げすぎると1回の出玉が小さくなりすぎる。30回転だと1大当りが825個で、連載の第一回で挙げた海の遊パチ(約1250個)より小さくなる。
25回転前後が、勝ちやすさと当たったときの手応えの折り合う場所だと思う。
規則が変わっても、それだけでは足りない
ここまで規則の話をしてきたが、規則が変わっただけでは動かないと思う。間に二つ、伝わらない場所がある。
ホールの判断は合理的
まず、ホールを責める話ではないことを書いておきたい。
高設定を入れても伝わらないなら、入れる意味がない。 前に書いた通りだ。広告費として払っているのに、誰にも見られない。だとすれば入れないのが正しい判断になる。
「ホールがぼったくりたいから設定を入れない」という説明は、たぶん半分しか当たっていない。入れても意味がない商品を渡されている、という側面がある。
メーカーからホールへ、意図が伝わらない
そして、仮にメーカーが逆向き設計の台を作ったとする。高設定ほど初当りが軽く、連チャンしにくい台だ。
ホールがそれを知らずに、いつもの感覚で運用したらどうなるか。設定6を入れても連チャンしないので、出ていないように見える。 そして低設定の方がたまに爆発する。
「この台はこういう意図で作った。だからこう使ってほしい」が伝わらないと、逆向き設計は成立しない。 判別窓を載せた台も同じで、「ここを見れば設定が分かる」を客に知らせる必要がある。
台を作るだけでは足りない、ということになる。
メーカーから行政へ、要望が出ていない
もう一つある。
2024年の改正は、業界の要望を受けて行われたものだ。 封入式のときもそうだった。行政側の立場は「業界団体の要望があれば検討する」で、日工組が提案し、規則が変わっている。
つまり経路はある。
だが、追加されたのはラウンド振り分けと確変突入率と転落確率とST回数だった。全部が出玉に直結するものになる。 判別専用の窓は要望に入っていない。
要望されていないものは、許可されない。
三つとも同じ理由で止まっている
整理すると、こうなる。
| 何が起きていないか | |
|---|---|
| ホール → 客 | 高設定を入れても伝わらない |
| メーカー → ホール | どう使ってほしいかが伝わらない |
| メーカー → 行政 | 判別専用の窓を要望していない |
一番上が伝わらないから、下の二つも動かない。 入れても伝わらないなら、そういう台を作る理由もないし、そのための規則を要望する理由もない。
伝わらないことが、三層とも止めている。
釘の側は、下限だけが動いた
最初に保留した釘の話に戻る。
設定が読めるようになっても、回転率が締められていれば意味がない。 判別と釘は別の条件だが、両方が要る。
そして釘調整は、公安委員会の事前承認なしにやれば無承認変更で違法だ。 閉店後であっても違法になる。制度の上では、釘はすでに固定されている。
だが執行されていない。釘が変形するからだ。 1日に数万発の玉が当たれば釘は必ず動く。だから店には検定通りに戻すという正当な理由があり、その操作は検定と違う状態にする操作と外形的に区別が付かない。
この曖昧さは、釘が曲がる素材でできている限り消えない。
そこで、釘を減らす方向の実装が始まっている。2020年にアムテックスが出した「クギナイン」は、始動口までの経路から釘を消した。そして2026年8月、京楽がフェアスタートを出した。
下限は上がった

e ソードアート・オンライン アリシゼーション 夜空(2026年8月3日導入)の仕組みはこうなっている。
打ち出した玉は5玉に1玉の割合で中央の回転体へ向かい、回転体の6つの穴のうち2つがスタート入賞になる。メーカーの公表値では100発あたり約6.67回。1000円250玉なら、16.7回転が機械側で担保される。

そしてこぼれた玉を受け止める「PLUS START」が別にある。メーカーの想定は「PLUS STARTを加味すると理論上20回以上」だ。
従来機は14〜15回転前後で運用されることが多かった。下限が16.7で止まるなら、それは改善になる。
だが、下限はボーダーの84%にある
ボーダーラインは、こうなっている。
| 交換率 | ボーダー | 16.7回転での収支率 | 20回転での収支率 |
|---|---|---|---|
| 等価 | 19.9回転 | 83.9% | 100.5% |
| 3.33円 | 21.1回転 | 79.1% | 94.8% |
| 3.03円 | 21.8回転 | 76.6% | 91.7% |
| 2.50円 | 23.5回転 | 71.1% | 85.1% |
※ボーダーはちょんぼりすたさんから。
担保されている16.7回転は、等価でも収支率83.9%だ。 ボーダーに3.2回転足りない。
足りない分はPLUS STARTと道釘が埋める。そしてそこには釘が残っている。 導入前に釘を読んでいた人の記事では、PLUS STARTについて「ゲージ的に相当厳しい」と書かれていた。1000円あたり3個入れないとボーダーに届かないという見立てだ。
固定されたのは下限で、ボーダーに届くかどうかは今も釘が決めている。
そして、他は何も変わっていない
賞球数は1&6&15で、ヘソは1個返しだ。 1000円で16.7回転なら、戻ってくるのは16.7玉になる。回転率は上がったが、戻ってくる量は変わっていない。
通常時の当りは300個。そして看板は1/199.9だが、LTに到達する確率は約1/1300と激重だ。

保証されているのが低い水準なら、保証には価値がない
上の表をジャグラーの設定に置き換えてみる。マイジャグラーの機械割は設定2が98.0%、設定3が99.5%になる。
等価で20回転回ったときの収支率100.5%は、その辺りだ。 非等価ならもっと下になる。無調整のフェアスタートは、感覚としてはマイジャグの設定2から3くらいの台ということになる。
私はジャグラーをよく打つが、もし店から「この台は設定2ですよ!どうぞ打ってください」とおすすめされても、絶対に座らない。 設定2の期待値がマイナスだと分かっているからだ。
判別する必要がないことと、打つ理由があることは別になる。
16.7回転が保証されている、というのはそういう話だ。そこにボーダーを超えているかどうかは書かれていない。
導入直後の全国データでは平均20弱回っているという。だがこれは新台効果と分離できない。 話題性で稼働がつけば、店は甘くしても回る。判定できるのは話題が落ちた後だ。
回転体の16.7回転は機種スペックなので締めても残る。 従来機なら15回転まで落ちるところが、下限で止まるはずになる。
下限を揃えただけでは高設定は入らない
そして、これが一番大事なところだと思う。
前に書いた通り、高設定が入るのは「この店は出す」が伝わるからだった。全台が同じ下限に揃っても、そこに伝わるものはない。
メーカー自身が、こう述べている。
フェアスタートがユーザーの支持を得られれば、遠くない将来に設定付きパチンコへの展開や新たな遊技性の実現にもつながる可能性がある
回転率の固定は、設定を載せるための土台としてなら意味がある。 単独では、「公平に負ける台」になる。
まとめ
- 設定付きパチンコは2018年から8年やって200機種近く出ている。2019年がピークで、その後崩壊した
- 設定示唆演出はある。だが座った一人にしか見えない。島を歩いて読めるのは、データランプの大当り回数だけになる
- 現行機は判別信号より、出玉信号の方が大きい。 増幅は0.89から0.97で、1日のZは0.4前後。見抜くのに時間がかかるのに、外したときの損は大きい
- 見抜けるかどうかは打ち手の都合ではない。店が甘くしても伝わらない台では、高設定を入れても広告にならない
- 2024年8月22日までは、それが規則の帰結だった。設定で動かせるのは作動確率だけで、それが通常時と確変中の両方に効く
- 確変をなくしても同じ。残り保留が3個あるだけで二重に効く。ウイニングボールの公表値がそれを示している
- 2024年8月23日、解釈基準が改正された。ラウンド振り分け、確変突入率、転落確率、ST回数にも設定差を付けられるようになった
- 追加された三つは全部出玉に直結する。同じ向きに使えば悪化するが、逆向きに使えば増幅が1を超える
- 高設定ほど初当りが軽く連チャンしにくい設計なら、増幅1.51でZ=2.01。ジャグラーに迫る
- だが実機は全部同じ向きに回している。2026年5月導入の犬夜叉3.0は増幅0.97、Z=0.26
- 逆向き設計には代償がある。低設定ほど分散が1.48倍大きくなり、高設定のご褒美感が消える
- 釘を固定するなら、25回転前後がバランスがいい。
- 代償なしでやるなら、判別専用の窓が要る。小当りなら1/80→1/50の50個返しでZ=2.08。ジャグラーのREGとほぼ同じ立ち位置になる
- だが小当り確率は、2024年の改正後も設定で動かせない。追加されたのは作動確率に付随するものだけで、判別専用の窓は一つも増えていない
- フェアスタートは16.7回転を機械で担保した。だがボーダーは19.9で、届くかどうかは今も釘が決めている
- そして賞球1個返し、通常時の当り300個、LT到達激重は変わっていない。下限が上がったことと、勝てる台になったことは別だ
規則が判別を禁じているのだと思っていた。しかし、2年前に許されていた。
できないのではなく、やっていない。 そして、やらない理由は一番下にある。高設定を入れても客に伝わらないから店は入れない。店が使わないならメーカーは作らない。作らないなら行政に要望も出ない。
一番下で止まっているものが、上まで止めている。
マクミラン著。「高設定は広告費だ」という言い方には、経済学で名前が付いている。シグナリングという。売り手が自分の品質を証明するためにコストを払う、という枠組みだ。数式なしで読める。
筆者は、SAOをWEB版から追いかけ、毎回新作を購入している大ファンだ。アリシゼーション編のアニメはあまり良くない出来だったが、原作はシリーズ屈指の名作なので、ぜひ小説を読んでみてほしい。



