前回、分散を上げれば還元率を下げても勝率は変わらない、という計算を書いた。客が体験する「勝てた日の頻度」は1ミリも動かないまま、店は多く取れる。
だとすれば、機械はその方向に設計されるはずだ。実際どうなっているのかを見ていきたい。
そしてもう一つ、構造が変わっても変わらなかったものがある。名前だ。
構造は、そのために変わった
ここまでを踏まえて、機械の話をしたい。
順番が大事だと思っている。還元率が先で、構造は後だ。機械の仕様が変わったから客が減ったのではなく、還元率が下がった状態でも客が離れないようにするために機械の仕様が変わった。
パチンコ側では、2019年5月の型式試験申請分から、日工組の内規で四つの下限が撤廃されている。
| 撤廃された項目 | 従来の下限 | 内規化の時期 |
|---|---|---|
| 通常時のベース | 30以上 | 2016年7月 |
| ヘソ(始動口)の賞球 | 4個以上 | 2016年2月〜7月 |
| 電チューの賞球 | 1個以上 | 2011年11月 |
| 他入賞口の賞球 | 3個以上 | 2004年7月 |
ベース30とは、通常時に100発打ち出して30発返ってくる状態のことだ。打ち出した球の3割は戻る、という意味になる。
そして新規則機のヘソ1個返しを可能にしたのは、この撤廃だ。
ただし、還元の義務そのものが消えたわけではない。施行規則の側に、1時間の試射試験で発射総数の3分の1を超えること、という下限が残っている。日工組の関係者も、撤廃の理由として「施行規則で出玉率の下限値が決められているので、内規でベースを担保する必要がなくなった」と述べている。
消えたのは総量の縛りではなく、通常時と大当り時のどちらで返すかという配分の縛りだ。
なお海シリーズは大海物語5をはじめ今も3個返しの機種が多いので、賞球数そのものが全滅したわけではない。撤廃されたのは下限の方だ。
制度は、封じて、そして開けた
ここが大事なところだと思う。
「規制でそうなったのだから仕方ない」という説明を、私も長らく受け入れていた。だがこれは、少なくとも順序が違う。
上の表をもう一度見てほしい。ヘソ賞球4個以上という下限は、元からあったものではない。 日工組が2016年に決めたもので、しかも目的が明言されている。通常時のベース30を確保しやすくするためだ。
つまり2016年の時点で、放っておけばヘソ賞球が削られる力が既に働いていた。だから封じた。
証拠がある。2015年2月導入のCRAギンギラパラダイス3ASAは、賞球数が1&2&10&12。ヘソ1個返しだ。私の妻が最後に打った甘マクロスF2の77Ver.(2016年1月導入)も同じく1個返しだった。どちらも下限が入る前の台である。

甘マクロスF2 77Ver.
しかもこの台は、前回書いた壁を越えるタイプでもあった。ヘソからの確変突入は8%しかないが、外れても時短50回転が付く。そこで引き戻せば電チュー経由になり、今度は100%確変。ST継続率は80.1%だ。
前回出したスーパー海物語SAEと並べてみてほしい。
| 賞球数 | 構造 | |
|---|---|---|
| スーパー海物語SAE | 3&5&10&12 | 大当り約480個、平均2.6連 |
| ギンパラ3ASA | 1&2&10&12 | 確変突入8%、時短からの引き戻し、ST継続率80.1% |
同じ甘デジという名前で賞球数も出玉の構造も正反対だ。そして両方とも旧規則の台である。
通常時の払い出しを削れば、型式試験の枠の中で、その分は大当り側に移すしかない。だからこの手の台はボーダーが低く、店長が回してくれる限り勝率は高かった。
ただし、大当り側でどう配るかは別の話になる。ギンパラは同じ甘デジで2万発出たことがあり、下手なミドルより爆発力があった。一方で妻が打っていた甘マクロスF2は、同じ1個返しでもそこまで荒くはなかった。
賞球を削ることと、出玉を一点に集めることは、別の操作だ。 前者は制度と試験の枠から出てくるが、後者は設計の選択になる。
そして「もう甘デジとは言わないだろう」というカテゴリの空洞化も同じ時期に起きている。
賞球の削減、出玉の集中、名前の空洞化。三つとも下限が入る前から始まっていた。
制度は方向を作ったのではない。一度封じて、そして自分で開けた。
封じる必要があったということ自体が、市場が先にそちらを向いていた証拠になる。
パチスロ側
パチスロでは、有利区間が差枚数での管理になり、通常時のベースを下げてボーナスや上位ATの獲得枚数を上げる設計が可能になった。
水準はコイン単価を見ると分かりやすい。コイン単価は売上をイン枚数で割った値で、平たく言えば1枚回すのにいくら現金を通すかを表す。ノーマルタイプが2円前後、AT機は3円前後が標準で機種差が大きく(絆2のように2円台前半のものもある)、荒い台なら4円を超える。
| 削った層 | 移した先 | |
|---|---|---|
| パチンコ | ヘソ賞球・ベース | 大当り・ラッキートリガー |
| パチスロ | 通常時のベース | ボーナス・上位AT |
両方とも、頻繁に起きる払い出しを、めったに起きない払い出しへ移している。
ラッキートリガーは、集中してよい割合まで決めている
ラッキートリガーは、制度上「突入時の期待出玉が9600個未満のRUSH、もしくはそこへの突入契機」と定義されている。LTでない通常のRUSHは1回あたり6400個未満なので1.5倍だ。
だが、制度が決めているのは上限だけではない。三つの数字が同時にかかっている。
| 内容 | |
|---|---|
| A | LT突入時の期待出玉が9600個未満 |
| B | 初当り1回あたりの総獲得出玉期待値が6400個未満(当時は3200個未満。2025年に倍増した) |
| C | LT到達率 × LT期待出玉 ≦ 総獲得出玉期待値 × f |
Cの左辺は、初当りの出玉を含まない。LTの向こう側で出る分だけを数える。
問題はここだ。総出玉のうち何割をLTの向こう側に置いてよいかを制度が直接決めている。
そしてfが動いている。
| 時期 | f | LT以外で出す義務 |
|---|---|---|
| 2023年6月〜(LT搭載可に) | 1/2 | 50% |
| 2024年7月〜(LT2.0) | 2/3 | 33% |
| 2025年7月7日〜(LT3.0+) | 4/5 | 20% |

二年で集中の許容量が1/2から4/5になった。LT以外で返す義務は、50%から20%まで下がっている。
面白いのは、コンプリート機能についての業界メディアでの説明が同じ形をしていることだ。上限を決めたことで、そこまでの出玉を出しやすい機械が作れるようになった、という説明がされている。従来なら3万発の獲得率が1%程度だったところ、上限があるなら同じ3万発を2%で狙える設計にできる、と。
上限を設けたことが、そこまでの集中を許可したことになっている。 そしてCを見れば、これは比喩ではない。制度は集中してよい割合を分数で書いている。
そして、名前だけが残った
ここまでが機械の話だ。だが、構造が変わっても変わらなかったものがある。名前だ。
今の市場で「ライトミドル」と呼ばれているものは、かつてのライトミドルではない。
かつてのライトミドルは、ミドルやMAXの機種をそのままスケールダウンしたものが多かった。継続率などはそのままで、1回あたりの出玉だけが少ない。台全体が比例して軽くなっていたので、「ライト」という名前は台全体を指していた。一つの数字を見れば、残りも同じ方向にあると分かった。
今は違う。実例で見た方が早い。2025年1月導入の「e押忍!番長 漢の頂」は、ライトミドルに分類される機種だ。

e押忍!番長 漢の頂
| 数値 | |
|---|---|
| 通常時の大当り確率 | 1/179.5 |
| RUSH(=ラッキートリガー)突入率 | 25% |
| LTに到達する確率 | 1/718 |
| 賞球数 | 1&4&15 |
看板は1/179.5で、LTに届くのは1/718。かつてのMAXが1/399だったので、1.8倍重い。
そして、出玉の振り分けを見てほしい。
| 通常時の当り | 振り分け | 出玉 | その先 |
|---|---|---|---|
| 非突入 | 75% | 約750個 | なし |
| 突入 | 25% | 約750個 | ST157回 |
当たった瞬間の出玉は、どちらも同じ750個だ。 違うのは、その先に続きがあるかどうかだけになる。
RUSHに入れば継続率は約80%で、そこでの大当りは70%が約3000個、残る30%が約300個になる。出玉は当たりそのものではなく、その先の連鎖に積まれている。
3分の2が壁の向こうにある
総出玉のうち、どれくらいがLT経由なのか。RUSHの総出玉をRとすると、初当り1回あたりの期待出玉は「750個+0.25R」になる。750個の方は突入しようがしまいが必ずもらえる分だ。
そして、Rには上限がある。ただしそれは出玉そのものの上限ではない。
前半で書いた通り、内規はLT到達率とLT期待出玉の積が、初当り1回あたりの総獲得出玉期待値の3分の2以下であることを求めている。番長が導入された時点の、e機での値だ。
番長に当てはめると、こうなる。なお番長はe機なので、当時のfは2/3になる。
このとき総獲得出玉期待値は2250個で、もう一つの上限(6400個未満。当時は3200個未満)にも収まる。
| RUSHの総出玉 | LT経由の比率 |
|---|---|
| 3000個 | 50.0% |
| 4500個 | 60.0% |
| 6000個(上限) | 66.7% |
総出玉の3分の2までが、初当りの25%でしか始まらない側に積める。
そしてこの3分の2は、私が計算して出した値ではない。規則がそう決めている値だ。
そして、番長は甘い方の例でもある。
非突入でも750個もらえるというのは、この機種の評価点として語られていた部分になる。他の機種では、通常時の当りが300発程度というものも多い。非突入時の出玉が小さいほど、同じ制約の下でLT側に置ける比率は上がる。
「ハズレでも750個もらえる」が美点として語られるということは、300個が普通になっているということだ。 空洞化しているのは名前だけではない。客の側の基準線も一緒に動いている。
ついでに賞球数も見てほしい。1&4&15、つまりヘソは1個返しだ。前半で書いた通常時を削る操作と、ここで書いている出玉を集中させる操作が、同じ一台に両方入っている。
「ライト」が指すものが変わった
整理すると、こうなる。
| ミドルとの関係 | 「ライト」が指しているもの | |
|---|---|---|
| かつてのライトミドル | 全体が比例して縮小 | 台全体 |
| 今のライトミドル | 初当りだけが軽く、LTに入ればミドル以上 | 初当り確率だけ |
比例縮小なら名前は保証になる。全部が同じ比率で小さいのだから、一つの数字を見れば残りも見当がつく。
今は、一つの数字と残りが逆方向に動いている。軽いのは看板に出ている数字だけで、その先はむしろ重くなっている。
甘デジ黎明期、知り合いに言われたことがある。「いずれ99分の1はただ当たるだけになって、まとまった出玉を得るには何個もの壁を越えないといけなくなる」と。数え方としてはこれが正しい。初当り確率ではなく、まとまった出玉に到達する確率を数えるべきなのだ。
そして前回書いた通り、これはラッキートリガーが始めたことではない。甘デジが同じ経路をすでに辿っている。ミドルの比例縮小から始まり、引き戻しで出玉が伸びるタイプが出て、最後は「もう甘デジとは言わないだろう」と言われる水準まで行った。名前の空洞化は10年近く前から始まっている。
だから「ライトミドルを増やす」という処方箋は、今の市場では同じものを別の名前で増やすことになりかねない。初当りという数えられる部分だけを軽くして、出玉を決める部分は削ったままにできてしまう。
ヘソ3個賞球と玉単価はごまかせない
一方で、ヘソ3個賞球の復活と、2円台を切る玉単価はごまかせない。
賞球数は目で見て分かる。玉単価は売上をアウトで割るだけで出る。どちらも下流の突破率をいじって回避することができない。
ただし玉単価には、一つ注意が要る。
粗利率は「玉粗利 ÷ 玉単価」で決まる。玉粗利を据え置いたまま玉単価だけ下げると、客が取られる割合はむしろ上がる。 玉単価3.0円で玉粗利0.31円なら粗利率は10.3%だが、玉単価2.0円で玉粗利が0.31円のままなら15.5%になる。
玉単価が測っているのは金の減る速さであって、取られる割合ではない。第一回で「勝てた日の頻度は還元率の代理指標にならない」と書いたのと、まったく同じ形だ。
だから正確にはこうなる。玉単価は玉粗利とセットで見れば機能する。 単独では、また別の見えない場所へ移すだけになる。
賞球数の方にも同じ問いを当てる
では賞球数はどうか。玉単価に留保を付けた以上、こちらにも当てておくべきだと思う。
ヘソ3個返しに戻したとして、店が釘を締めれば回転率は同じところに落ち着く。第一回の分解では、回転数の低下のうち6割は釘・盤面の側だった。期待値の話としては、賞球数を戻しても相殺されうる。
だが、相殺されないものが一つある。
3個返しなら同じ15回転でも45玉が戻ってくる。1個返しなら15玉だ。回転率を揃えても、戻ってくる量は揃わない。 第一回で書いた通り、体感を作っているのはそちらだった。
そして、持ち時間も揃わない。3個返しで15回転に揃えると、1000円あたりの発射玉数は265発から295発へ増える。第一回の表で言えば、2.7分が3.0分になる。11%伸びる。
つまり、二つの処方箋は違うものを直す。
| 主に何を直すか | 何に注意が要るか | |
|---|---|---|
| ヘソ3個賞球の復活 | 戻ってくる量と持ち時間 | 釘で回転率は相殺されうる |
| 2円台を切る玉単価 | 金の減る速さ | 玉粗利とセットでないと逆に働く |
どちらも下流でごまかせないが、どちらも単独では足りない。
この記事の前半で並べたスーパー海物語SAEは、賞球数が3&5&10&12でヘソ3個返しだった。番長は1&4&15。この二行だけで、ここまで書いてきたことがほぼ全部言える。
下流でごまかせないことは、処方箋が機能するための必要条件だ。十分条件ではない。
業界側の認識について
ここで、PiDEA Xがホール関係者に取ったアンケートに触れておきたい。
現在のパチンコは粗利が高くなりすぎていると答えたのが85.3%、高粗利営業を改善したいが80.9%、ライトミドルや甘デジなど他スペックを育成したいが91.2%。対策案として挙がっていたのは、甘デジ・ライトミドルの比率を増やすこと、2円台を切る玉単価の新台導入、ヘソ3個賞球の復活、MAXやハイミドル設置比率の抑制だった。
上で書いたことと、そのまま対応している。
ただ、この数字は扱いに注意が要る。サンプル数も抽出方法も記載がなく、業界メディアの読者を対象にしているなら、そもそも問題意識の高い層に偏っている可能性が高い。
だから、この記事の論はアンケートに乗せていない。ここまで挙げてきた機種の公表値だけで組んである。アンケートは、同じ方向の話が供給側からも出ているという傍証として読んでほしい。
その上で、内訳に一つだけ触れておく。「育成したい」91.2%の内訳は、「稼働が付くなら育成したい」が60.3%、「稼働に関わらず育成したい」が30.9%だった。
育てたいという回答と、育成が起きないことは両立する。 稼働を条件にすれば、条件が満たされるまで何も起きない。無条件で動くと答えたのは3割で、しかもその3割が単独で動いても、上に書いた速度の問題は残る。
link どうする!?パチンコ 高粗利営業からの脱却|PiDEA X
看板は今も機能している
同じ記事の番外編で、ユーザー側にも聞いている。
LT搭載のライトミドルについて「1/199なら当たりそうと思える」「投資が抑えられるから試してみようと思える」という声が並び、現行機種で最も支持を集めていたのが番長だった。過去のライトミドルを推す声には「初当たりが軽い」「毎日少しずつ勝てた」というものが多い。
判断に使われているのは、初当り確率の方だ。
名前が中身を指さなくなっても、看板の数字は読まれ続けている。この節で書いてきたことの、需要側からの裏づけになる。処方箋としてスペック名が機能しないというのは、そういう意味だ。
まとめ
- 2019年5月の内規改正で、ベース30以上とヘソ賞球4個以上を含む四つの下限が撤廃された
- ただし施行規則の出玉率下限は残っている。消えたのは総量ではなく、通常時と大当り時の配分の縛りだ
- ヘソ賞球4個以上という下限は2016年に作られたもので、目的はベース30の確保だった
- ヘソ1個返しも、壁を越える設計も、名前の空洞化も、その下限が入る前から始まっていた
- 制度は方向を作ったのではない。一度封じて、そして自分で開けた
- 賞球を削ることと出玉を一点に集めることは別の操作で、後者は設計の選択だ
- ラッキートリガーの制度は上限だけでなく、総出玉のうち何割をLTの向こう側に置いてよいかを分数で決めている。その分数は2年で1/2から4/5になった
- 構造は変わったのに名前は変わらなかった。だから「ライトミドルを増やす」は処方箋として機能しない
- 賞球数と玉単価は下流でごまかせない。ただし、ごまかせないことは必要条件であって十分条件ではない
一言で言えば、中身が動いて、看板が動かなかった。
ここまでは、機械とメーカーと制度の話だ。だが、実際に球が出てくるのは店の島の上でしかない。
私は昔から店を選んで打っていた。その島がどうなっていたのか、そして今どうなっているのか。次回はその話を書きたい。
POKKA吉田著。この連載で何度も引用した人の本だ。違法釘問題と爆裂機規制で揺れた2015年を扱っている。本文で書いた内規の話は、その延長線上にある。
このシリーズ(全7回)
番外編.固定釘と設定付きパチンコ


