前回、私は自分の実践から三つの例を書いた。沖海で30回転を超えていた台、大工の源さんで同じようなことがあった話、そして2025年12月に打ったシンエヴァの甘デジ。
三つに共通していたのは、どれも席が空いていたことだ。ボーダー+10、参考値にして収支率150%の台が、長時間空いていた。
そしてもう一つ、私は正直に書いた。私自身がもう探していない、と。
今回はその意味を書きたい。
抜きすぎているだけなら、+10の台が空いたままになる理由がない。誰かが必ず座るはずだ。
問いはこうなる。望むか望まないかとは別に、なぜ止まらないのか。
供給側の説明と、その穴
止まらない理由について、業界側からよく出る説明がある。私が読んだ元ホール経営者の文章では、こう整理されていた。
機械代が上がった。かつては9万円台だったパチンコ台が、スマパチ・スマスロの時代になって60万円、70万円が当たり前になった。一方で機械の寿命は短くなり、1か月で客が飛び、中古価格も暴落する。結果として、償却が終わる前に撤去せざるを得ない台が増えた。だから粗利を上げないと経営が成立しない、というものだ。
玉粗利がかつての13.7銭から現在の30銭超になった背景として、この説明はよく分かる。SISの2006年の値が玉単価1.2円・玉粗利13.7銭・利益率11.4%だと、同じ人が別のところで挙げている。2.3倍だ。
そして、上がっていること自体は数字で確認できる。DK-SISのレポートによれば、2021年から2024年にかけて設置台数は381万台から333万台へ13%減り、店舗数も8458から6706へ21%減っている。その一方で、業界の粗利規模は2.39兆円から2.54兆円へ増えている。
SIS導入店の1台1日あたり粗利で見ても、同じ期間に2160円から2630円へ22%増えている。
台も店も減っているのに、1台から取る額は増えている。ここまでは、業界側の説明と矛盾しない。
ただ、私はここに一つ穴があると思っている。
「1か月で客が飛ぶ」が、外から降ってきた災難のように扱われている。
飛ぶ経路そのものは書かれている。SNSでの評価が広まると、一瞬で稼働が消える、と。だが、評価の中身については書かれていない。回らない、出ないという評価が広まるのだとしたら、評価されているのは店の運用の方だ。
ここを埋めると、話が一周する。
この向きが正しいなら、「機械の寿命が短い」は原因ではなく結果だ。
念のため書いておくと、このループは私が作ったものではない。
上の説明が出発点にしている動画で、業界ジャーナリストのPOKKA吉田氏は、玉粗利が10銭ちょいから30銭超になったことについて「3倍抜いたら客がいなくなるのは当たり前」と述べている。
二人は、違う問いに答えている。 元経営者は粗利が上がった原因を語り、解説者は粗利が上がった結果を語っている。どちらも業界の内側からの発言だ。
私がやったのは、片方の出口をもう片方の入口に挿しただけになる。
同じ文章には、遊技人口が減ったので1人あたりから取る額が増えるのは必然だ、という説明も出てくる。これも同じ形をしている。なぜ減ったのかを埋めないと、同じところに戻ってくる。2節でその話をする。
link 「いまパチンコ店の粗利率が異常な理由」元経営者がSISデータから読み解く“業界の真実”
分子と分母を分ける
どちらが正しいのかを、外から確定させることはできない。だが、区別には実務的な意味がある。
償却の重さは、割り算で決まる。
償却圧 = 台価格 ÷ 設置期間
分子はメーカーが決める。外から来るコストだ。分母は店が決める。正確には、店が締めた結果として決まる。
純粋に外からのコスト圧なら、コストが下がるまで何も変えられない。だが分母が内生なら、どこかで切れば止まる。
この記事の残りは、分母の話になる。
逃げた順番には規則性がある
パチンコから客が減ったことは、誰も否定しないと思う。だが、誰から減ったのかはあまり議論されない。
私の見るところ、こうなっている。
| 層 | 還元率への感度 | 何で判断するか | 判断に要する時間 |
|---|---|---|---|
| 勝ちたい層 | 最も高い | 釘。座る前に見える | 座る前 |
| 遊びたい層 | 中程度 | 体感。分散に埋もれる | 数回の来店 |
| 高ボラを好む層・還元率に反応しない層 | 最も低い | — | 反応しない |
感度が高い順に抜けている。
一番上の層は、座る前に判断できる。釘を見て、回らないと分かれば座らない。だから還元率が下がった瞬間に消える。
二番目の層は、座ってみて分かる。「一瞬で球がなくなった」と言う人たちがこれだ。数回来て、体感でダメだと判断して来なくなる。ただし第一回に書いた通り、彼らが体感しているのは分散であって還元率ではない。だから判断は遅れるし、標的もずれる。
そして残るのは、還元率が下がっても反応しない層になる。
ここで断っておきたいのだが、私はこの層を否定するつもりはまったくない。荒い台が好きというのは正当な嗜好だし、パチンコの負け額を小銭としか思っていない人もいる。それは個人の自由だ。依存症の話に短絡させるつもりもない。
問題は病理ではなく、その層しか残らなかったことの方だ。
コロナは別の原因で同じ順番を作った
一つ、混ざっているものがある。
私の体感では、コロナ明けとコロナ前で、明らかに年寄りの数が減った。それまでは沖海や大海といった海の島に年寄りがいっぱいいた。それが波が引いたように少なくなり、コロナ前の状態に戻ったことは一度もない。
これは還元率とは無関係な離脱だ。外からのショックで、たまたま感度の最も低い層が大量に消えた。
だから、この離脱を「感度が高い順に抜けた」の証拠に使うことはできない。原因が違う。
ただ、結果として店に届く信号は、さらに歪んだことになる。
店に届く信号が壊れた
順番の何が問題なのか。
釘を締める。感度の高い層が抜ける。だが残った層は反応しない。だからその日の稼働は落ちない。 落ちるとしても、日次のデータからは判断できないほど遅い。だから締め続けられる。
年単位で見れば、稼働は明確に落ちている。この記事の冒頭に挙げた台数と店舗数の数字がそれだ。問題は、落ちていることが日次では見えないという点にある。
ホールのデータは「まだ大丈夫」を返し続ける。実際に減っているのは、既に来ていない人だからだ。来ていない人はデータに現れない。
ここまでは、たぶんよく言われる話だと思う。だが、これだけでは足りない。締めすぎているだけなら、気づいた店が緩めればいい。
締めても信号が返らないなら、緩めても信号は返らない。
前回書いた「+10の台が長時間空いていた」は、そちらの面だ。かつて回る台は取り合いだった。誰かが必ず見つけて座った。今は誰も座らない。
ただし、正確に書いておく。あの台は店が意図して緩めたものではない。前回書いた通り、データ異常として検出されている。店のミスだ。
だから、あの観測が直接示しているのは「ミスが回収されない」ということでしかない。だが、ミスすら回収されないなら、意図して緩めても同じことになる。 見つける人間がいないという点では、どちらも変わらない。
探す人間がいなくなった後の世界では、店のミスすら回収されない。
そして私自身が探すのをやめた一人だ。私が探していないから空いていた、という部分は確実にある。私は当事者であって、傍観者ではない。
有無ではなく、速度の問題
ここを、信号があるかないかではなく、速度で言い直したい。その方が正確だと思う。
前回書いた通り、パチンコには無料で島全体を見渡せる経路がない。釘は読めるが、それは技能であって、訓練した人にしか払えないコストだ。
つまり、緩めたことが伝わるには、技能を払える人間が来て、気づいて、稼働や口コミの形で返ってくるのを待つ必要がある。その人間は、最初に抜けた層だ。
一方、締める判断のサイクルは短い。日々の粗利で決まる。
緩めた効果が返る速度が、締める判断のサイクルより遅い。
これが、私の考える答えだ。そして一店だけでは緩められない理由も、これで説明が付く。
ここで償却の話が噛み合う。緩めた効果が返るまで待つには時間が要る。だが、償却圧の分母は縮んでいる。必要な時間が伸び、使える時間が縮んだ。 どちらか片方なら耐えられたかもしれないが、両端から開いた。

抜くのは安く、戻すのは高い
もう一つ、信号には方向による差がある。
| 何を見れば分かるか | 必要なサンプル | |
|---|---|---|
| 緩めた | 良釘の台を1台見つける | それを読める人が1人 |
| 締めた | 島全体の配分が下がったこと | 複数台 × 複数日 |
検出そのものは、緩めた側の方がずっと簡単だ。1台見つければ足りる。ただし、それを読める人が1人は要る。そしてその1人が、最初に抜けた。
締めた方は、そもそも1人では判定できない。締めた日は「自分がハマっただけ」で処理される。第一回に書いた分散の話が、ここでも効く。分散は、負の信号だけを吸収する。
パチスロなら、緩めた側は速い。設定を入れれば、その台のデータランプに数字が出て、誰にでも読める。だから、抜いた後に戻すという運用が成立しうる。看板を調整弁として使える。
パチンコでは、緩めた側も遅い。抜けるが、戻せない。
これが両者の違いだと私は思っている。
1パチは4円より回らない
「本来のヘビーユーザーはすでに低貸に流れた」。この受け皿があるから大丈夫だ、という理屈は業界にある。
だが私は以前、1パチについてこう書いた。
普通の店なら4円パチンコで1000円15回くらいは回る。玉単価が4分の1の1円パチンコなら、同じ釘調整で理論上は4倍、1000円60回になるはずだ。しかし私が見た範囲では、酷い店なら1000円で30〜40回しか回らないこともある。4円換算にすると1000円あたり7.5〜10回転という数字になる。
そのうえ換金率も悪い。多くの店で、実は4円の方がはるかに回る。
1パチは「少ない投資で遊べる」のではない。同じ負け額に到達するまで時間がかかるだけで、その過程で得られるのは何も起きない画面を眺める時間だ。勝率で言えば最低クラスになる。
つまり、避難したつもりの層が、最も勝てない場所に集められている。業界は「受け皿はある」と思っている。その受け皿は本体より勝率が低い。
そして低貸しに流れた客は、4円に戻ってこない。1パチの1000円で1000玉という感覚が身についた人が、4円で1000円250玉を体験したとき、4倍の速度で溶けていく恐怖に耐えられるとは思えない。
第一回に書いた私の妻は、低貸しにも移らなかった。甘デジが回らなくなった時点で、そのままやめた。感度の高い層は、受け皿にも来ない。
まとめ
- 機械代と寿命の話は事実だが、「客が飛ぶ」理由が抜けている。償却圧の分子は外から来るが、分母は自分で決めている
- 客は還元率への感度が高い順に抜けていった(これは仮説)
- 残ったのは反応しない層なので、店のデータには問題が現れない
- 締めても信号が返らないなら、緩めても返らない
- 有無ではなく速度で言えば、緩めた効果が返る速度が、締める判断のサイクルより遅い
- しかも償却期間は縮んでいる。必要な時間が伸び、使える時間が縮んだ
- 避難先とされる低貸しは、本体より勝率が低い
一言で言えば、逃げた順番が悪かったということになる。
最も敏感な人間から順に消えたので、残った人間からは信号が返ってこない。間違っていることを知らせる仕組みが壊れている。 そして壊れているのは締める方向ではなく、緩める方向だ。
これは、私がこのブログでずっと書いてきたことの、規模違いの再演でもある。個人の収支では、分散が大きいほど自分が負けていることに気づけなくなる。産業では、感度の高い客から抜けるほど、劣化していることに気づけなくなる。どちらも答え合わせができないという同じ問題だ。
さて、ここまでパチンコの話ばかりしてきた。
だが同じ構造変化は、パチスロでも起きている。にもかかわらず、パチスロの客はまだ大きくは減っていない。DK-SISの数字では、2024年にパチンコ機は約10万8千台減っている。同じ年、パチスロ機は約8千台増えている。
何が違うのか。そして、私のような人間がなぜ好きでもないジャグラーを打ち続けているのか。
次回はその話を書きたい。
ハーシュマン著。書き終えてから知ったのだが、この記事の内容は1970年に本になっていた。品質が落ちたとき、客には離脱と発言の二つしかない。そして敏感な客ほど先に離脱するので、組織には改善の信号が届かない。私が島の上で観測したことと同じだ。
このシリーズ(全7回)
番外編.固定釘と設定付きパチンコ


