前々回と前回で、ジャグラーの完全確率について二つのことを書いた。
一つは、打ち手が引いた一台のデータも、特許も、完全確率を否定する証拠にはならないということ。もう一つは、大量のデータを集めても、設定が混ざる限り、その検証はことごとく罠に落ちるということ。
どちらも「打ち手の側には検証できない」という話だった。すると、当然こう思う人がいる。
「打ち手に無理でも、設定を決められるホールやメーカーなら、検証できるんじゃないか」
今回は、その問いに答えたい。
結論を先に言ってしまえば、こうだ。理屈の上ではできる。だが現実には誰もやらない。そして「やらない」理由が、技術ではなく構造に根ざしているからこそ、この問いはおそらく永久に決着しない。
検証に必要なデータは、思っているより桁違いに多い
前回、完全確率の検証には数十万から百万ゲーム規模のデータが要る、と桁感だけ書いた。今回はその中身を、もう少し具体的に詰めておきたい。
完全確率の検証とは、「ボーナスの間隔が、理論通りの分布に従っているか」を確かめることだ。
平均のボーナス確率が公表値と合っているか、という話ではない。当たりの間隔の散らばり方そのものが、完全確率の予言する形になっているか。ここを見ないと「毎ゲーム同じ確率で抽選しているか」は分からない。
そして、分布の形を確かめる作業は、平均値を一つ出すのとは比べものにならないほど、大量のデータを食う。深いハマりが理論より多いか、という細工を見抜くには、その滅多に起きない深いハマり自体を何十回も観測しなければならないからだ。
どれくらい回せば「歪み」を見抜けるのか
では、具体的にどれくらいのデータがあれば、完全確率からのズレを見抜けるのか。簡単なシミュレーションで確かめてみた。
設定6相当(合算1/114)の台を想定し、「もし完全確率ではなく、深いハマりで当たりにくくなる細工がされていたら、それをどれくらいの確率で見抜けるか」を計算した。
細工の強さ、つまり完全確率からの歪み(ズレ)の大きさは三段階。深いハマり(300ゲーム以降)での当たりやすさを、理論値の0.70倍まで弱める露骨なもの(大)、0.85倍(中)、0.95倍というごく繊細なもの(小)。これを、集めたボーナス回数ごとに、見抜ける確率(検出力)として出している。
| 集めたボーナス回数 | おおよそのゲーム数 | 歪み・大(露骨) | 歪み・中 | 歪み・小(繊細) |
|---|---|---|---|---|
| 300回 | 約3.4万G | 12% | 7% | 6% |
| 1000回 | 約11万G | 56% | 15% | 7% |
| 3000回 | 約34万G | 96% | 37% | 10% |
| 10000回 | 約114万G | ほぼ100% | 91% | 20% |
数字は「その細工を見抜ける確率」だ。読み方を説明する。
まず、歪みが露骨な場合(深いハマりが目に見えて当たりにくいレベル)でも、ボーナス300回、ゲーム数にして約3.4万G程度では、見抜ける確率はわずか12%。1000回(約11万G)でようやく56%、コインの裏表より少しマシな程度だ。きちんと見抜くには3000回(約34万G)が要る。
歪みが繊細な場合(メーカーが本気で隠すなら、このくらい微妙にやるだろう)は、もっと悲惨だ。ボーナス1万回、ゲーム数で114万G集めても、見抜ける確率はわずか20%。5回に4回は見逃す。

つまり、完全確率の検証には、はっきりした歪みでもボーナス数千回(数十万ゲーム)、繊細な歪みなら100万ゲームを超えても足りない。これが検証に必要なデータの現実的な桁感だ。
数万ゲームの検証では、なぜ足りないのか
この桁感を踏まえて、世にある「検証」を見てみる。
ネットでときどき、「数万ゲームのデータを集めて完全確率を検証した」という記事や投稿を見かける。数万ゲームというとボーナス回数にして数百回だ。
さっきの表で言えば、一番上の「300回」の行ですら届かない。露骨な歪みでも見抜ける確率が一割強、繊細な歪みならほぼ手も足も出ない。
つまり、数万ゲームで「完全確率だった」と結論しても、それは「完全確率を否定する力が、そもそも無かった」だけ。逆に「完全確率ではなかった」と言うなら、それは混ざったデータの罠か、偶然の偏りを拾っただけの可能性が高い。
肯定するにせよ否定するにせよ、数万ゲームの検証は、結論を出せる土俵にすら立てていない。二桁から三桁、データが足りていないのだ。
では、誰なら検証できるのか
ここまでで、検証には数十万から百万ゲーム規模の、しかも設定を確定したデータが要ると分かった。
打ち手には設定を確定する手段がない。だから、いくらゲーム数を稼いでも設定の混ざったデータにしかならず、土俵に立てない。
設定を確定できるのは、二者だけだ。設定を自分の手で入れているホールと、そもそも仕様を設計しているメーカー。この二者なら、確定した設定6のデータを、理屈の上では好きなだけ集められる。
だが、ここで問いが裏返る。できるかどうかではなく、やる動機があるかどうか、だ。
なぜ、できる者ほどやらないのか
メーカーは検証する必要がない。自社で仕様を決めているのだから、ジャグラーが完全確率かどうか、最初から答えを知っている。確かめるまでもない。
そして、その答えを外に向けて証明してみせる動機もない。「完全確率です」と証明したところで1円にもならないし、わざわざ仕様について発言すれば、その分だけ揚げ足取りの的が増えるだけだ。だから黙っている。これが合理的だ。
一方、ホールは少し事情が違う。
ホールはメーカーと違って、ジャグラーが完全確率かどうかの答えを知っているわけではない。だが設定は自分の手で入れられるから、確定したデータを集める能力だけは持っている。つまり、答えを知らず、かつデータを集められる立場という意味では、本来ホールこそが検証しうる唯一の存在なのだ。
それでもホールはやらない。理由はメーカーとは別種で、純粋に経済合理性の問題だ。
完全確率を検証するために、設定6を何十万、何百万ゲーム分も回させる、という行為に、店として何の得もない。設定6は、店にとっては客に取られる出玉そのもの。検証のために高設定を大量に長期間ばらまくのは、わざわざ損を垂れ流すのと同じだ。
仮にデータが集まったとしても、それを公開する理由はもっとない。設定配分は店の手の内であって、晒せば商売が成り立たなくなる。能力はある。だが、損だからやらない。
つまり、こういう構造になっている。検証する能力を持つ者(メーカー・ホール)は、検証する動機を持たない。検証する動機を持つ者(打ち手・我々)は、検証する能力を持たない。能力と動機が、きれいに食い違っている。
この食い違いは偶然ではない。設定を確定できる立場にいるということは、同時にその情報を秘匿することで利益を得る立場にいる、ということだからだ。検証できる力と検証を隠したい動機が、同じ場所に宿っている。だから、力のある者ほど口を開かない。
未解決のまま放置される、という結末

整理すると、ジャグラーの完全確率は「三重の壁」で守られている。
打ち手のデータでは、設定が混ざって検証にならない。これが一つ目の壁。
仮に設定を確定できても、必要なサンプルが天文学的で個人には集めきれない。これが二つ目。
そして、それだけのデータを集められる立場の者には、集めて公開する動機がない。これが三つ目。
この三つ目の壁が、いちばん厚い。一つ目と二つ目は技術的・統計的な壁だが、三つ目は人間の利害が作る壁だからだ。技術はいつか進歩するかもしれないが、「検証できる者ほど検証したがらない」という構造は、ジャグラーが商売である限り、変わらない。
だから、この問いはおそらく永久に決着しない。「完全確率だ」と証明されることも、「操作されている」と暴かれることも、たぶん、ない。誰も、それをやる立場と動機を同時には持っていないからだ。
これは陰謀論ではない。むしろ逆で、誰かが悪意で隠しているという話ですらない。ただ、確かめる力を持つ者に確かめる理由がない、という、ごく当たり前の利害の配置が、結果として真実を闇の中に置いているだけだ。
私たちにできるのは、その闇を呪うことでも、闇に向かって叫ぶことでもない。闇は闇として認めた上で、自分の手元にある確かなものだけで立ち回ること。前々回に書いた通り、それに尽きる。
完全確率かどうかは、分からない。そして、分からないという状態そのものが、これからもずっと続く。その事実と静かに付き合っていくしかない。



