私のパチスロの立ち回りのメインは高設定狙いだ。ハイエナはしない。
ただ、しないだけで構造は知っている。天井とゾーン、恩恵の強さ、ボーダーの引き方、やめどき。期待値稼働がなぜ成立するのかという理屈は、この世界で長く勝ち続けるための必修科目だからだ。
そんな私には、もう一つの遊技歴がある。株のデイトレードだ。
昔、5分足と15分足でマクロとミクロを見て、MACDのクロスを待ち、RSIで精度を上げるという王道の手法をかじり、プラスを残したまま離れていた。ただ、当時は正直、感覚でやっていた。期待値の出どころなんて考えたこともなかった。
そのデイトレを最近、本腰を入れて再開しようと思い立った。今度は感覚ではなく、パチスロと同じように理詰めで。そうして手法を一から勉強し直していて、すぐに膝を打った。
これはハイエナだ。
期待値のある形になるまでじっと待つ。ダメならすぐ損切りして次を待つ。1回1回の結果に一喜一憂せず、同じルールで数をこなしてトータルで浮かせる。稼働の作法が完全に同型なのだ。
ハイエナと同じ構造で、過去に勝った経験まである。なら理詰めでやれば安定して勝てるはず。
そう思って、トレードを始める前に一つだけ確認することにした。この手法の期待値は、どこから来ているのか。
結論から言えば、調べ終わったとき、期待値稼働としてデイトレをする理由がなくなっていた。今回はその話だ。
なお「ギャンブルと投資を一緒にするな」と言われそうだが、今回はむしろ逆で、一緒にして精査したら一緒ではなかったという話だ。
ちなみに「ハイエナで食えている人はデイトレに向いている。今すぐ始めるべきだ」という主張は、20年前の個人ブログにもあり、今日のSNSにも定期的に流れてくる。つまり20年間、期待値稼働者に向けて同じ売り文句が再生産され続けているわけだ。
検証のためのデータは、もう20年分出揃っている。この記事は、その答え合わせだ。
ハイエナの期待値は「誰が払っているか」を説明できる
パチスロの天井狙いの期待値には出どころがある。
天井は型式上の仕様だ。規定ゲーム数に到達すれば当選する。これはメーカーが公表する確定情報で、明日になっても変わらない。そして前任者がハマって捨てたことで、あなたが座る時点の期待値がプラスに転じている。
つまり「誰が、なぜ、あなたにお金を払っているのか」という問いに答えられる。答えは、前の打ち手が置いていった沈没コストだ。
では、5分足のMACDゴールデンクロスに同じ質問をしてみる。この形で買うと期待値がプラスになるなら、そのお金は誰が、なぜ払ってくれるのか。
私はここで答えに詰まった。この違和感がすべての出発点だった。
検証データは存在する。何千通りも検証された上で、残らなかった
「そんなの、実際に検証してみないと分からないだろう」と思うかもしれない。私も自分でトレード記録をつけて検証するつもりだった。
調べてみると、その必要はなかった。テクニカル売買のルールは学術研究で最も大量に検証されてきた対象の一つだったからだ。
代表的なものを3つ挙げる。
その1:Marshallらの研究(2008年)
S&P500に連動するETFの5分足データを使い、移動平均系を含む人気テクニカルルールを7846通り検証した。
結果、データスヌーピング(大量に試して、たまたま良かったルールを後から選ぶバイアス)を補正すると、利益の出るルールは一つも残らなかった。下落相場の年と上昇相場の年の両方で、だ。
恐ろしいのは、補正前には「統計的に有意に勝てて見える」ルールが多数見つかっていたことだ。7846回くじを引けば、当たりくじ風のものは必ず混ざる。バックテストで勝てるルールが見つかること自体は何の証明にもならない。
その2:Chongらの研究(2014年)
MACDとRSIそのものを複数の先進国市場で検証した。
結果はまちまちだったが、注目すべきは対象市場の一つ、日経225ではどのルールもバイ・アンド・ホールド(買って放置)に勝てなかったという点だ。私がトレードしようとしていた、まさにその市場で名指しで負けている。
その3:Chagueらの研究(2020年頃)
手法ではなく打ち手を追いかけた。ブラジル先物市場の個人デイトレーダー全員を追跡した結果、300日以上続けた人の97%が損失。最低賃金より稼げたのは約1%だった。
ネットでは「王道手法の勝率は55〜60%」という数字がよく再生産されている。仮にそれが本当でも、勝率と期待値は別物だ。勝率60%でも、1回の負けが1回の勝ちの1.5倍あればトータルはマイナスになる。
勝率だけ示して損益比を示さない主張は、初当たり確率だけ見せて純増枚数を隠すスペック表と同じだ。
「条件を絞れば期待値が上がる」は、理屈としては正しい
ここでハイエナ経験者ならこう考えるはずだ。天井狙いだって、狙うゲーム数を深く絞るほど、打てる台は減るが期待値は上がる。デイトレも同じで、15分足の方向、MACDのクロス、RSIと条件を重ねて絞れば、エントリーは減っても勝率は上がるのではないか、と。
理屈自体は正しい。もし土台にプラスの優位性が存在するなら、絞るほど条件付き期待値は上がる。
違いは一点だけ。天井の「深く絞るほど期待値が上がる」は、仕様書に書かれた因果だ。計算で証明でき、絞った瞬間にその数字が確定する。
一方、テクニカルのフィルターは過去データとの相関だ。絞ってバックテストの勝率が上がっても、それは過去のノイズに条件を最適化しただけかもしれず、その勝率が明日も続く保証はどこにもない。
一言で表すならこうだ。
ハイエナは期待値を知ってから打つ。デイトレはトレードした後にしか期待値が分からない。
しかも「トレードした後に分かる」のハードルが高い。勝率55%とコイントス(50%)を統計的に区別するには、ざっくり600トレード前後が必要になる。厳選エントリーで1日2〜3回なら、自分の手法がプラスかどうかの答え合わせに、半年から1年分の授業料を払うことになる。
天井恩恵がプラスかどうか、500台打たないと分からないホールがあったら、あなたは通うだろうか。
「負けのデータも歪んでいるのでは?」という鋭い反論
ここまで読んで、こう思った人は相当に鋭い。「未来の検証ができない市場なら、『97%が負けた』という過去のデータだって、たまたまその期間の環境が悪かっただけの歪んだ数字ではないのか」と。
指摘自体は正しい。数字は環境で揺れる。ある年は95%、別の年は99%かもしれない。ただし、歪みの「向き」が違う。
勝てる手法のバックテストは、無数の候補の中から一番良く見えた瞬間を選び出した、人為的な上振れのノイズだ。一方「97%が負けた」は、その市場のその期間にいた全員を、選別なしで強制的に合算した結果だ。上振れの見本市と全数調査。信頼していい向きは明らかだろう。
ただし、ここで手を抜くと自分の足を撃つことになる。「全員を合算すればマイナス」なら、パチスロも全く同じだからだ。ホールの全台合計差枚数は毎年大きくマイナスで、それでも私は勝ってきた。全体がマイナスサムであること自体は、個人が勝てないことの証明にはならない。
本当の違いは、「勝ち方を実践している集団」だけを切り出して合算したときに浮くか沈むかにある。
パチスロなら、天井狙いで座った人たちだけを合算すれば、構造上プラスに浮く。座る前に期待値が分かっているのだから当然だ。ところがブラジルのデータが示したのは、デイトレという手法に最も打ち込んだ集団、300日以上続けた人たちを切り出して合算しても、なお97%が沈んでいるという事実だった。
全体がマイナスなのではない。実践者を選り抜いてもマイナスなのだ。細部の数字は環境で揺れても、この性質はひっくり返らない。
取り合いはないように見えて、ある
もう一つ、ハイエナとの決定的な違いがある。
ハイエナには椅子取りゲームがある。良い台は他のプロと取り合いになる。一方デイトレは誰かと席を取り合う感覚がない。エントリーはいつでもできる。
だが、取り合いは見えないだけで存在する。奪い合われているのは席ではなく価格だ。
もしある形が本当にプラス期待値なら、それは床に落ちた現金と同じで、拾い尽くされるまで放置されない。ミリ秒単位で反応するアルゴリズムがその形を検知して執行し、価格を「期待値ゼロの水準」まで動かしてしまう。あなたが5分足の確定を待って注文を出す頃には、拾えたはずの歪みは価格に織り込まれて消えている。
パチスロで例えるなら、席はいつでも空いているのに、座った瞬間にゲーム数がリセットされるホールだ。データカウンターには800Gと表示されているのに、座って打ち始めるといつの間にか0G。ライバルが台を取っていくのではなく、自分が見ている表示の方が常に一歩遅い。
取り合いがないように見えるのは、取り合いが終わった後の景色しか個人には見えないからだ。
コスト論だけは、昔の常識が負ける
公平を期して言えば、デイトレ批判の定番である「手数料が積もって沈む」は、今の日本では言い過ぎだ。
国内株の売買手数料は主要ネット証券で無料になり、デイトレ用の一日信用には金利ゼロの設定もある。残るコストはスプレッドとわずかな滑り、それに利益が出た場合の税金くらいだ。
ついでに自分の過去記事も訂正しておく。以前インバースETFを「毎日リセットで価値が削れる設定1のGOD」と書いたが、あの削れは日をまたいで保有した場合の話で、当日中に手仕舞うデイトレにはほぼ効かない。
では、コストが消えた今の日本なら負けないのか。ここは正直に書いておくと、ブラジルの97%という数字には、当時の手数料やスプレッドによるコスト負けの寄与も含まれているはずで、その分を切り分けることはできない。
ただし、コストだけでは説明がつかないことも分かる。期待値ゼロの手法をコストほぼゼロで打てば、結果は勝ちと負けの半々あたりに散らばるはずだ。97%が同じ側に沈むには、全員を系統的にマイナスへ押し込む力が要る。
候補は三つ。コスト、優位性の不在(価格への織り込み)、そして行動の歪みだ。今の日本では、このうち一つ目がほぼ消えている。だが、残る二つはどこにも行っていない。
三つ目の「歪み」とは、利益は早く確定したがり、損失は先延ばしにする、あの性質のことだ。プロスペクト理論の実地版で、原典は以前も紹介した『ファスト&スロー』に詳しい。期待値ゼロのコイントスですら、感情で打てばこの歪みで系統的にマイナスへ傾く。
補助金型の期待値と、奪い合い型の期待値
ここまでを一枚にまとめると、こうなる。
| ハイエナ(天井狙い) | デイトレ(テクニカル) | |
|---|---|---|
| 期待値の出どころ | 公開スペック+前任者の沈没コスト | 説明できない |
| いつ分かるか | 打つ前に計算で確定 | 数百トレード打った後 |
| 相手 | 学習しない機械 | 学習するプロとアルゴリズム |
| 保証 | 天井到達=当選(仕様) | 「必ず反発するライン」は存在しない |
| 数をこなすと | 期待値が収束して浮く | 優位性ゼロなら歪みの分だけ沈む |
根っこにあるのは、期待値の性質の違いだ。
パチスロの期待値は、供給者が意図的に置いた「補助金」。
ホールは出玉アピールという広告宣伝費として高設定を設置し、勝つ客の存在を予算に組み込んでいる。しかもスペックは型式試験で固定され、途中で「学習」して取り返しに来ることができない。だからこそ、知識とメンタルと資金力という、個人が努力で調達できる三点セットだけで拾える。
市場には、個人のチャート読みに勝たせるための予算を組んでいる主体が存在しない。手数料無料はホールの出玉サービスに似ているが、あれは回転してくれる客ほど儲かる集客の撒き餌であって、その先に高設定に相当する席は用意されていない。
ハイエナが拾っているのは、他人が捨てた期待値だ。デイトレで拾おうとしていたのは、誰も捨てた覚えのない期待値だった。
昔の自分の「勝ち」を検算する
最後に、冒頭に書いた昔の「プラス」を処理しなければならない。しかもあれは理詰めですらない、感覚でやっていた頃の勝ちだ。
このブログでは、ジャグラーの設定判別について「数百Gの好挙動は証拠にならない。判別不能」と書き続けてきた。その物差し(Z値)を自分のトレード記録に当てるとどうなるか。
先ほど書いた通り、勝率55%とコイントスの区別には600トレード規模が要る。私の勝ちは、そのはるか手前のサンプル数だった。つまり統計的には、まぐれと区別がつかないゾーンのど真ん中にある。
設定1で3000枚出た日と同じだ。勝った事実は嬉しいが、手法の証拠としては何の価値も持たない。他人に言われたのではない。自分のブログの基準が自分にそう宣告した。

まとめ:活発さは、期待値の証拠にはならない
「あれだけ大勢がやっているのだから、絞れば勝てるものなのだろう」。私はどこかでそう思い込んでいた。
だが考えてみれば、その答えを私は20年間、毎週見てきたのだった。大多数の参加者にとって期待値がないのに、毎日何百万人を集め続けている場所。パチンコホールだ。
活発さは期待値の証拠にならないどころか、期待値を供給する側の人間が大量にいることの証拠だったりする。ハイエナが成立するのは、マイナス期待値で打って台を捨てる人が大勢いるからなのだから。
誤解しないでほしいのは、これは株式投資そのものが勝てないという話ではないということだ。株式のどこに本物の期待値が置かれていて、なぜデイトレだけがそれを取り逃がすのかは、この連載の第3回で書く。その前に、次回はもう一つの疑問を片付けたい。
期待値がないなら、株のテクニカル分析とは結局、パチスロの波読みと同じただのオカルトなのか?
答えは「イエスであって、イエスではない」。この奇妙な答えの中身が、パチスロと市場の一番深い違いだった。


参考文献
- Marshall, Cahan & Cahan (2008) “Does intraday technical analysis in the U.S. equity market have value?” Journal of Empirical Finance 15(2)
- Chong, Ng & Liew (2014) “Revisiting the Performance of MACD and RSI Oscillators” Journal of Risk and Financial Management 7(1)
- Chague, De-Losso & Giovannetti (2020) “Day Trading for a Living?” SSRN Working Paper
- ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー』


